来年は自動車と駐留米軍経費で日米ギクシャクか~貿易協定〈暫定〉合意の先に待つもの

9月25日、日米は貿易協定の締結に合意し、安倍総理とトランプ大統領がニューヨークで共同声明に署名した。報道ぶりはご大層なものだったが、「三文芝居を見させられているようだった」というのが私の感想である。

ミニ合意

今回の日米合意については、「日本政府はよくやった」という声もあれば、「トランプに押された」という批判もある。政治的には、安倍政権を支持する人は褒めるし、支持しない人はけなす。内容的には、トランプが突きつけた対米自動車輸出への関税引き上げを当面回避できたとみるか、TPPで合意していた自動車の関税引き下げを実現できなかったとみるかが評価の分かれ目となっている。

今回の合意を一言で言えば、日本が米国からの農畜産物をもっと買う(少なくとも、今買っている量を減らさない)ということに尽きる。その条件(関税)はTPP水準の範囲に収まっており、別に目新しいところはない。(正確に言えば、セーフガードを発動しない牛肉の輸入枠については新たに別枠をつくり、米国を特別扱いすることになった。)

今回の貿易協定についての米国側の報道ぶりは、「包括的な貿易協定の第一段階」という言い方で一致している。それはそうだろう。日本が最も恐れていた自動車に対する追加関税の発動は、先送りとなった。茂木外務大臣は追加関税を課さない旨、トランプが安倍に確認したと胸を張った。しかし、ライトハイザー通商代表は「現時点では」と釘を刺し、将来の追加関税に含みを残している。いずれにせよ、トランプの保証なんて詐欺師の保証みたいなもの。茂木の得意そうな顔は恥ずかしかった。

安倍とトランプのウィン・ウィン

共同記者会見の際に安倍は、今回の合意が日米双方にとって「ウィン・ウィン」だと述べた。図らずも、言い得て妙、である。

まずはトランプ。米中貿易交渉は長期化して先行き不透明になった。カナダ、メキシコとの間では新FTA(USMCA)を何とか締結したものの、民主党が多数を占める下院での批准に手間取り、いつ発効させられるかわからない。再選を狙うトランプとしては、支持基盤である米農家に現段階で何らかの実績を示したい。大統領権限で発効させられる日本(及びインド)との「ミニ」貿易協定を是が非でもまとめる必要があった。

一方の安倍。日米間の利害対立が表面化し、安倍が習近平のようにトランプの標的になれば、外交上手という評価は地に堕ち、安倍政権の求心力も急低下しかねない。10月からの消費税引き上げを控え、米中貿易戦争による悪影響に日米貿易摩擦が加われば、日本経済の先行きにますます暗雲が漂い、それこそ政権の命取りになりかねない。

目先の合意にすぎなかろうと、大した中身があろうがなかろうが、安倍とトランプにとって今回の日米合意がウィン・ウィンのディールだったことは間違いない。

日本の存在感低下

ミニと言われようと、先送りと批判されようと、日米の貿易協議がとりあえずまとまったことは事実だ。見通しのきかないまま、過激化の一途をたどる米中貿易戦争とはえらい違いである。しかし、前回のブログで述べたとおり、それは日米関係が良好だから、というわけではない。その背景にある最も大きな事実は、米国(と世界)にとって日本経済の存在感が大幅に低下したことだ。

今回の合意、「世界第一位と第三位の経済大国が結んだ貿易協定である」と言っても別に間違いではない。しかも、日本人は常に米国を中心に世界を見ているから、日米の貿易問題は一大事だと受け止める。だが、米国も同様の受け止めかと言うと、相当な温度差がある。

日米貿易摩擦が燃え盛った1980年代と今日では、米国の目に写る日本経済の大きさは、まったく異なっている。2018年、旧NAFTA締結国(カナダ、メキシコ)からの輸入が米国の総輸入に占める比率は26.2%だった。内訳はカナダからが12.5%、メキシコからが13.6%。単一の国ベースでは、中国からの輸入が21.2%で圧倒的に多い。一方、日本からの輸入は総輸入の5.6%。ASEAN全体の7.3%よりも小さい数字だった。

昔は違った。1989年に日本からの輸入が米国の輸入全体に占める比率は19.8%でトップ。ジャパン・アズ・ナンバーワンという言葉が流行し、やがては日本のGDPが米国のそれを凌駕すると多くの米国人が怖れていた。当時の米政府(レーガンから父ブッシュ政権)が日本に照準を定めたのも無理はなかった。

トランプが正面切って言うことはないだろうが、日本とのディールに本気で取り組むメリットは、それほど大きくないと考えるのが自然である。トランプは既にカナダ、メキシコと新協定(USMCA、ただし未批准)を締結したが、全体の2割以上を占める中国からの輸入をどうにかしないと、有権者への効果的なアピールにならない。

本丸=自動車と駐留米軍経費

先日合意が発表された——と言っても、まだ未署名だが——日米貿易協定により、日米関係は当座の小康状態を得ることになった。

しかし、日米貿易交渉の本丸は、今回先送りされた自動車分野だ。大統領イヤーの来年、トランプは日本のみならず、欧州や韓国も含め、米国が自動車を輸入する国々を叩きにくるはず。ロイターによれば、2017年の米国の自動車輸入は830万台で、メキシコが240万台、カナダが180万台、日本が170万台、韓国が93万台、ドイツが50万台となっている。トランプが本気なら、日本だけ特別扱い、ということにはならないだろう。

米中経済戦争ばかりが注目されているが、トランプのアメリカ・ファーストは同盟国にも、そして貿易以外の分野にも向けられている。特に、同盟国に対する防衛負担増はトランプにとって政治的に重要な公約だ。韓国は今年2月、今年度分の在韓米軍駐留経費負担を従来比8.2%増やすことに同意したが、トランプは来年以降も増額を求める構え。在日米軍駐留経費も聖域扱いされることはない。

ブルームバーグは今春、トランプ政権がドイツや日本などに対し、駐留経費全額プラス50%以上の支払いを求める方針だと伝えた。ボルトン大統領補佐官(安全保障担当、当時)に至っては、今年7月に来日した際、応対した日本側の担当者に「5倍増」を要求した、と朝日新聞が伝えている。

在日米軍駐留経費のうち、日本側が負担している比率は75%(2005年の米側試算)とも86%(2015年度の防衛省試算)とも言われる。実際にかかっている駐留経費以上を払え、というのだから、米側の要求は正気の沙汰とは思えない。だが、トランプにかかれば、狂気と正気の区別はなくなる。もちろん、交渉戦術として最初は大きな数字をふっかけておき、最終的には駐留経費の満額を同盟国に負担させれば上出来、と考えているのかもしれない。

いずれにせよ、我々にしてみれば、米軍駐留経費の満額を支払うなんぞ、冗談ではない。ナショナリスト・安倍晋三にとっても、駐留経費負担増額の受け入れは、沽券にかかわる問題のはずだ。

折悪く、現在の駐留経費負担協定の期限は2021年3月まで。次の5年分――期間は短縮される可能性もある——の交渉は、よりによって大統領選挙イヤーの来年、行わなければならない。

米中協議と大統領選がカギを握る

来年からかこの年末からか、日米交渉は上記2分野で本丸に入る。交渉のプロを自認するトランプのことだ、貿易交渉の枠組みの中で自動車とコメを絡めるといったチンケな戦術ではなく、自動車と在日米軍駐留経費をリンケージさせて日本政府を揺さぶる、くらいのことはいくらでもやってくるだろう。

今後の日米交渉はどうなるのか? 少し予想してみたい。

安倍総理にせよ、経産省、外務省、防衛相にせよ、米国との対立が表面化してでも守り切る、といった覚悟は持っていない。日本政府は米国に対して世界でも稀な腑抜けである。(一戦交える覚悟もなしに米国の虎の尾を踏んだ挙句、尻尾を巻いたのが鳩山由紀夫だった。)したがって日本政府の方は、従来のスタイルで何とか切り抜けたい、と思いながら交渉に臨むことになろう。

従来のスタイルとは、トランプの中で問題が大きくなる前に、トランプのご機嫌をとりながら小規模な譲歩を早めに見せ、日米交渉妥結が双方の政権にとってウィン・ウィンだと納得させる、というもの。問題は、来年という時期に、この2つのテーマで、それが通じるかだ。

可能性はゼロではない。古い数字だが、2004年に米国防総省が発表した数字では、米軍駐留経費のうち、日本の負担割合は74.5%と最大。韓国は40%、ドイツは32.6%にすぎなかった。日本はある意味、優等生だ。ある程度の負担増は仕方ないとしても、その伸び率は抑えられるはずだと日本側は期待しているかもしれない。

しかし、トランプを甘く見てはいけない。7月7日付のブログにも書いたが、トランプは6月29日にも「日米安保はアンフェア」と述べ、日本側を牽制した。駐留米軍経費をめぐる今後の交渉では、駐留経費交渉に日本の軍事的貢献や安保条約改定(日本による集団的自衛権行使の明記を含む)を絡めてくる可能性も十分あり得る。

私は、日米交渉の鍵を握るのは、今後の米中貿易交渉の行方と米大統領選の動向だと思っている。

今回、日米ミニ合意でトランプが手を打ったのは、来年の米大統領選で民主党候補に対して不利な予想が多い中、米中貿易交渉の先行きが見えないことが少なからず影響していた。これは既に述べた通り。

来年も米中貿易交渉がまとまらなければ、日本側は自動車や駐留経費の交渉で比較的小さな譲歩を示し、支持者向けに当座の成果を示したいトランプに高く売りつける余地が生じる。例えば、米国は鉄鋼・アルミニウムのように自動車輸入関税を広く引き上げるが、日本車については個別に適用除外されるケースを設けてもらう。あるいは、日本側の駐留経費負担は微増にとどめる一方、またぞろ米国からの大型武器購入を約束する、とか。

日本にとって最悪なのは、米中貿易交渉がとにもかくにもまとまり、それでも大統領選挙でトランプの苦戦が続く場合だろう。中国以外の標的として、日本たたきの優先順位が上がるかもしれない。焦るトランプがなりふり構わず日本に圧力をかけようとして、対日防衛コミットメントを揺るがすようなツイートを発信するようなことがあっても、私は驚かない。

今年は日韓関係の悪化が著しい年だった。来年は、今とても良いと言われている日米関係が外交上の焦点になる可能性がある。その影響は、日韓の比ではない。

 

それにつけても、日本外交は米国に対する「その場しのぎ」外交をいつまで続けるつもりなのだろうか? トランプが再選されても、別の大統領が生まれても、日米関係が劇的によくなることはもうない。永遠にその場しのぎ、というのは御免こうむりたい。

今日の日米関係は「良い」のか? 

中国は貿易戦争を仕掛けられ、EUは今月中にも報復関税を発動されることになった。メキシコやカナダはNAFTAの大幅改訂を飲まされた。それに比べれば、トランプの対日圧力はまだ「優しい」方だ、と感じている日本人は決して少なくあるまい。925日に日米が貿易協定の締結に合意したことを受け、「今日の日米関係はまあまあ良いんじゃないか」という思いを強くした人もいるだろう。

だが、ちょっと待ってほしい。日本が圧力を受けていないのならともかく、日本に対する圧力が他国に対するものほどきつくないことを理由に「日米関係は良好である」という結論に至るのは、まともな思考でははない。

「今日の日米関係は史上最強」説

政府・与党やメディアの多くは、現在の日米関係を「非常に良好」と表現する。今年5月にトランプが来日した際も、安倍は「親密な個人的信頼関係により、日米同盟のきずなは揺るぎようがない」と胸を張った。外務省のホームページに至っては、9月25日に行われた日米首脳会談で両首脳が「日米同盟が史上かつてなく強固であるとの認識を再確認」した、とまで書いてある。

米中の貿易戦争は今や投資の分野にまで拡大しつつあり、着地点が見えない。トランプはカナダ、メキシコ、欧州などの同盟国首脳をも口汚い言葉で罵り、従来考えられなかったような要求を突きつけては様々な二国間関係にストレスを生じさせている。

こうしたアメリカ・ファーストの姿勢は日本にも向けられている。今回の日米貿易協定もその反映だ。しかし、トランプの要求リストの本丸部分(自動車)について、日本は交渉の先送りを許された。安倍に向けられてきたトランプの言葉(ツイッターを含む)も、イスラエルを除く他国首脳に対するものと比べれば、明らかにゆるい。その意味では、今日の日米関係を良好と呼ぼうと思えば、呼べないことはない。

だが、今日の日米関係を良好と呼ぶのは、やっぱり何かしっくりこない。その理由をはっきりさせるため、21世紀に入ってからの日米関係を時系列でごく簡単に振り返ってみたい。

21世紀の日米関係を振り返る

〈小泉―ブッシュ時代〉

この時代の日米関係は、確かに良好だったと言える。

外交安全保障面では、9.11を受けて対テロ戦争の遂行を推進した米国に対して、小泉政権は自衛隊をインド洋(アフガン戦争)やサモア(イラク戦争)に派遣し、目に見える貢献を行った。自衛隊は前線に出て戦ったわけではないが、湾岸戦争で「トゥーリトル、トゥーレイト」「キャッシュ・ディスペンサー」と揶揄された日本とは大違いだった。

経済面でも、日本脅威論が喧伝され、1980年代のように日米貿易摩擦が燃え盛った時代はもう過去のものだった。バブル崩壊後の「失われた10年(←その後も続いた)」を経て日本経済の相対的地位が低下した一方、双子の赤字に苦しんでいた米国は、冷戦終結に伴う平和の配当とIT経済の急速な伸長によって経済大国としての自信を取り戻していたのである。

小泉とブッシュの個人的関係も良かった。二人のケミストリーが合っていたことはつとに有名である。小泉のカウンターパートがオバマやトランプであったなら、ここまで緊密な関係とはならなかったに違いない。ジャック・シラク(仏大統領)やゲアハルト・シュレーダー(独首相)はブッシュの単独行動主義をきびしく批判していた。ブッシュにとって、トニー・ブレア(英首相)と小泉純一郎は、単に気があるだけでなく、外交の世界における盟友でもあった。

〈政権交代前〉

小泉は2006年9月に首相を退任する。その後の3年間で首相を務めた安倍晋三(第一次)、福田康夫、麻生太郎の下でも、日米関係の基本は変わっていない。

ただし、2007年の参院選以降、「ねじれ国会」の状況によって日本政府は日米間の約束事を円滑に遂行することができなくなった。福田内閣はテロ特措法の更新に失敗し、インド洋で自衛隊が行っていた米軍艦船への給油活動は3か月以上中断した。ブッシュの方も政権2期目の後半では支持率が低迷し、レイムダック状態に陥った。

小泉以後の3人の日本の首相とブッシュの間に緊密な関係が生まれることもなかった。日本側の首相はほぼ一年おきに交代したうえ、ブッシュとの間でケミストリーが一致する性格の持ち主もいなかったためだ。

〈民主党政権時代〉

2009年1月に米国ではオバマ大統領が就任した。同年8月末に行われた総選挙の結果、日本では2012年12月まで民主党が政権を担うことになる。

民主党は選挙時のマニフェストで、地位協定の改定、普天間代替施設の再検討、駐留米軍経費の削減、東アジア共同体の創設などを訴えていた。こうした対米自立路線が日米同盟に緊張をもたらしたことは言うまでもない。特に、鳩山由紀夫総理が普天間代替基地の辺野古移設案を見直して「最低でも県外」を実現しようとしたことは、日米関係を一気に冷え込ませた。加えて、民主党政権の統治能力欠如が日本政府に対するオバマ政権の不信感を増幅した。

その後、菅直人、野田佳彦の両総理はマニフェストで掲げた対米政策を事実上、封印した。鳩山の躓きに懲りたことが直接の理由だが、2010年秋の尖閣船長事件やメドベージェフ露大統領による国後島訪問など、中国やロシアとの間で緊張が高まったことも彼らの背中を押した。しかし、民主党政権に対するオバマ政権の態度は最後まで醒めたままだった。

民主党政権の3人の首相とオバマ大統領の間に個人的信頼関係が築かれることもなかった。日本側にも問題があったのは事実だが、オバマ自身も外国首脳と個人的に親しくなるような性格ではなかった。

〈安倍―オバマ時代〉

2012年12月の総選挙で安倍・自民党が政権に返り咲く。

安倍は日米関係の立て直しを唱え、米側もそれを歓迎した。中国の軍事的台頭が顕在化する中、オバマ政権は(少なくとも公式には)アジアへのリバランス戦略を打ち出していたからだ。とは言え、「米国は世界の警察官ではない」と表明したオバマの米国は、国際秩序に積極的に関わるよりも内政を重視する傾向が顕著だった。また、安倍内閣の歴史認識や靖国参拝に対する態度はオバマ政権にとって不快かつ危険なものと映っていた。

経済面ではオバマ政権がイニシアチブをとったTPPに日本政府も乗り、共に自由貿易を推進しようとした。2018年3月にはTPP11協定の署名に漕ぎつけている。

安倍とオバマの個人的関係は緊密と呼べるものではなかった。オバマは実務的な人間だったし、右翼的志向を持つ安倍と基本的にはリベラルなオバマの相性が良いわけもなかった。

〈安倍―トランプ時代〉

2017年1月、ドナルド・トランプが米大統領に就任する。

トランプはアメリカ・ファーストを掲げ、中国のみならず、同盟国との間でも摩擦を起こすことを厭わない。現在までのところ、日本はトランプを持ち上げ、米国からの武器調達など早期にトランプの要求に応じることによって、トランプの標的となることから免れてきた。

ただし、トランプ政権は日本に対して在日米軍駐留経費の大幅増――ボルトン大統領補佐官(当時)は来日時に5倍増を吹っかけた――を要求している。北朝鮮に対しても、2018年春までは米朝間に軍事衝突を起こしかねないほど緊張を高めて日本側の懸念を高めていたが、今は北朝鮮が中距離以下のミサイル開発を進めるのを問題視しなくなり、別の意味で日本側を心配させている。客観的に見れば、安全保障面で日米同盟の平仄が合っているとはとても言えない。国際秩序に対するトランプ政権の軍事的なコミットメントも、(オバマがやらなかった)シリア空爆に踏み切った以外は概して消極的である。

トランプは経済面でも日米関係は緊張を持ち込んだ。トランプは就任するやTPPからの脱退を表明。二国間でより米国に有利な貿易協定を結ぼうと画策してきた。

安倍とトランプの個人的関係は、表向き良好ということになっている。だが、二人の間に盟友関係と呼ぶような強い紐帯があるのかは疑問だ。ただし、中国だけでなく多くの同盟国の首脳と仲が悪いトランプにとって、安倍は「仲間」を演出できる数少ない首脳の一人。安倍もトランプとの良好な関係をアピールすることによって米国の要求を値切ろうとしているように見える。二人はお互いに相手のことを「利用するのに都合のよい人物」と考えているのではないか。

 

こうして時系列で見ると、今日の日米関係が良好であるとはとても言えない。日米双方が――安倍もトランプも、両国の官僚たちも――同盟関係の綻びが表面化しないよう画策し、それが比較的うまくいっているだけの話だ。今日の日米関係を良好と呼ぶのに抵抗を感じるのは、当然のことであった。

日米関係はトランプ大統領の誕生によって変質したというわけでもない。米国が内向きになる兆候はオバマの時代から既に顕著だった。来年の大統領選挙でトランプが再選されなくても日米関係が元に戻ることはもうない、と思っておくべきだ。