人手不足は外国人労働者受け入れ拡大法案を通す「錦の御旗」か?

出入国管理法改正案(外国人労働者受け入れ拡大法案)が審議入りして2日目の11月14日、政府は対象となる14業種別に当初5年間の外国人労働者の受け入れ見込み数と5年後の人手不足の見込み数を国会に示した。

145万5千人の人手不足!

この数字がどういう根拠に基づくものかは、まだはっきりしない。しかし、そこで示された14業種の人手不足の現状と近未来像はなかなか衝撃的だ。

現時点で58万6千人不足しているのが、5年後には145万5千人に膨らむ。それを前提にして、当初5年間の外国人労働者の受け入れ数は累計で26万2700人から34万5150人の間になる見込みだと言う。

145万も人手が足りなくなるんだから、30万人くらい外国人を入れてもよいではないか――。そう言われたら、「まあ、仕方ないか」とついつい思ってしまう数字である。

焼け石に水

一方で、日本の労働人口は、女性や高齢者の労働参加が増えるため、2023年頃までは増加基調が続くと言う。だとすれば、14業種で人手不足が深刻化する要因は業種間のミスマッチにあると考えられる。有効なミスマッチ対策を打つことができなければ、外国人労働者を政府の見込みどおりに受け入れたとしても、5年後に110万人以上もの労働力が不足することになる。

145万が110万人程度に改善する、という程度のことを実現するため、外国人労働者という名の実質移民を増やし、社会的にも財政的にもコストを甘受しなければならないのか? どうにも納得できない。

外国人労働者の受け入れを増やすことが必要である、と言いたいがために政府が出してきたこの数字。私には、政府の「過去の無策」と「将来の無能」を示すものにしか見えない。

関連業界は歓迎――政治が本気で抵抗しない理由

当初5年間に14業種で受け入れる外国人の数(見込み)は、介護=6万人、ビル清掃=3.7万人、建設=4万人、飲食料品製造=3.4万人、外食=5.3万人などとなっている。農業=3.65万人、漁業=9千人と、外国人労働者が必要なのは一次産業も同様。農協や漁協が政府に働きかけた結果、14業種に入ったとみられる。

来年の参議院選挙に向け、自民党にとっては幅広い業界を網羅した選挙対策法案になっているというわけだ。野党の方も、政府案を糾弾する一方、外国人労働者の受け入れ拡大そのものについては玉虫色の態度をとっている。農家を含め、業界団体の声を無視できないのであろう。

小さく生んで、大きく育てる? 

安倍総理は、国会に示した外国人労働者の受け入れ見込み数を上限にして出入国管理法を運用する方針だ、と国会で答弁している。

この見込みを前提にしたとき、外国人技能実習生から新資格への転換などを無視した単純な足し算では、在留外国人の数は2017年末の256.2万人(法務省入国管理局発表)から、2023年末には290.7万人に増えることになる。総人口に占める外国人の比率は2%から2.3%に増える。(総人口の減少分は考慮せず、総務省の人口推計や在留外国人統計から計算したもの。11月13日付のポストで示した数字とは若干異なる。)

これで終わるのなら、そこまで目くじらを立てることはないかもしれない。だが、ここで終わるとはとても思えない。

出入国管理法の改正案には、外国人労働者を受け入れる上限数は一切書いてない。そうである以上、安倍が国会答弁で何を言おうと絶対ではなく、将来答弁を修正することもできる。仮に当初5年間は安倍の言ったとおりに運用したとしても、次の5年間の見込み数を示す際に大きな数字を示せば、いくらでも膨らませることができる。

また、14業種に漏れた業界は、追加指定されることを要望していると言う。14業種自体、法律に書かれているわけではないから、追加は簡単だ。もちろん、業種が追加されれば受け入れ見込みも増え、外国人労働者受け入れの上限数も増加することになる。

将来的な人手不足の見込み数が145万人からさらに増えれば、業種ごとの受け入れ見込みも増えると考えるのが普通だ。それどころか、今のままでは5年後も14業種で100万人以上の人手不足が見込まれるため、それをカバーするために外国人受け入れを現在の想定以上に増やす、という選択肢も十分にありえる。

業種間のミスマッチ対策の際たるものは賃金引上げや労働条件の改善だろう。しかし、人手不足であっても日本の企業経営者(第一次産業を含む)は賃金を上げたくない。安い労働者がほしいから、外国人なのだ。その「貧乏企業の論理」で考えれば、日本社会が不安定化しようがどうなろうが、彼らは「外国人をより多く働かせたい」と政治に要求し続けるだろう。

最悪の場合、「経済成長のためなら、人手が不足する分はすべて外国人で補ったらいい」という意見が産業界でも政治の世界でも強まる可能性があるのではないか。

仮に5年後に見込まれる145.5万人の人手不足分をすべて外国人労働者で賄えば、日本に住む外国人は2017年末の256.2万人から401.7万人へと1.57倍も増える。総人口に占める外国人の比率は、現在の2%から3.2%にまで上がる。外国人労働者を受け入れる業種が14からもっと増えたり、各業種の人手不足分が増加したりすれば、この比率はさらに上昇する。

人手不足をいくら言い募ったところで、量的な歯止めを設けないまま外国人労働者の受け入れを増やすことの免罪符にはならない。