24時間営業は「錦の御旗」なのか?――セブンイレブンへの疑問

セブンイレブン本部とフランチャイズ加盟店オーナーが深夜営業をめぐって激しく対立し、ニュースになっている。セブンイレブンのフランチャイズ契約は加盟店による24時間営業を明記していると言う。ところが、東大阪市にある加盟店のオーナーは人手不足や過酷な労働条件を理由に深夜営業を(本部の了解なく)とりやめた。これに対し、セブンイレブン本部は契約の解除や1700万円にのぼる違約金の請求をちらつかせ、対立が激化している――。報道によれば、これが「事件」の大筋のようだ。

当初、この「事件」について正確な情報を持たない私がしたり顔でコメントすることは控えるべきだと思っていた。だが、2月20日にセブンイレブン・ジャパンのホームページに掲載された「弊社加盟店の営業時間短縮に関する報道について」という、木で鼻を括ったような声明文を読んで気が変わった。東大阪の「事件」でどちらかの肩を持つつもりは今もない。だが、この「事件」は両者の争いを超えて日本のコンビニ業界のビジネス・モデル、ひいては企業の社会貢献のあり方について根源的な問いかけを突きつけているように思えてきた。この予感が正しければ、私なりの考えを述べることも無意味ではないだろう。

セブンイレブンの声明文

セブンイレブン本社の声明は、「弊社加盟店における営業時間短縮の報道におきましてお騒がせしており誠に申し訳ございません」で始まる。この手のお詫び文の定型だとは言え、わかっていないなあ、というのが最初の感想。今回の件でセブンイレブンに対して不快感を抱いた一般人は、東大阪の件が表に出なければよかった、などとは全然思っていない。むしろ、逆だ。この件が表沙汰になり、騒ぎになったことを一番苦々しく思っているのは、セブン本部の面々じやないのか。あなたたちからこんなことを言われても、苦笑するしかないですよ。

次に「へっ?」と思ったのは、セブンイレブンが声明の中で、コンビニエンスストアの果たす「社会インフラとしての役割」を強調し、24時間営業を継続する決意を明らかにしていること。行間から「正義は我にあり」というセブンの鼻息の荒さ、加盟店を見下した「上から目線」が露骨に伝わってくる。

それはさておくとして、こんなに簡単に24時間営業の継続を打ち出してよかったのか? 今回の件を受け、セブンイレブン本部内では現在及び将来の24時間営業のあり方について徹底的な議論は行われたのだろうか? 大企業によくあることだが、官僚体質に陥った組織が惰性で24時間営業の継続を打ち出したように見えて仕方がない。

セブンイレブン本部側の対応~4つの選択肢

今回の「事件」が報じられたとき、大別して次のような決着が考えられるだろうと素人なりに考えた。

    1. 加盟店側がフランチャイズ契約に規定された24時間営業の義務に違反したことを理由にセブン本部がフランチャイズ契約を解除し、加盟店に対して違約金を請求する。加盟店側が泣き寝入りすれば、それで終わり。加盟店が争うことを選べば、違約金が減額される等の条件で和解に至る可能性もある。
    2. セブン本部は応援要員の派遣など相当な援助を行い、加盟店はそれを受け入れて24時間営業を再開する。
    3. セブン本部はこの加盟店に対し、特例的に24時間営業の義務をはずす。加盟店は本部から受け取る手数料等の減額等、ペナルティを受ける一方で深夜営業を免除される。
    4. セブン本部は、全加盟店とのフランチャイズ契約を見直し、24時間営業の義務付けについて柔軟性を持った対応ができるようにする。

「事件」が表沙汰になっていなければ、セブン本部は選択肢①を選んでいた可能性が最も高い。しかし、「事件」が世間の注目を大きく浴びた時から、セブン本部は、裁判に勝とうが負けようが、ブランド・イメージの毀損など、加盟店との関係で発生するのとは別種の損失を気にしなければならなくなった。その結果、セブン本部が選択肢①をすぐに選ぶ可能性は低下したと思われる。

セブン本社がHP上に掲載した声明を読む限り、セブン側は選択肢②の線で着地させたい意向のように見える。だが、仮に加盟店側が選択肢②に同意して当座の解決が図られたとしても、それが持続可能なのか、という問題は残る。夜間の人手不足は簡単には解消しないため、加盟店側にしてみれば、綱渡り状態が続く。セブン本部の側も、本部からの人員派遣を永久に続けられるわけではなかろう。何よりも、他の加盟店から同様の声が出てくれば、そのすべてに本部が応援を出すことはできないはずだ。

セブン本部にとっては、選択肢③にも同様の問題がある。東大阪の加盟店だけ特別扱い、という取り決めを仮に結んだとしても、ここまで騒ぎになった以上、それを秘密にしておくことは到底できない。他の加盟店からも同様の要求が噴出することは火を見るよりも明らかだ。東大阪のように表沙汰になれば要求が通るのか、と加盟店のオーナーたちが思えば、「炎上」が頻発することも十分にありえる。そうなればセブンイレブンのさらなるイメージダウンは避けられない。

では、選択肢④はどうなのか? 加盟店側の中には、「24時間営業をやめられるのなら、売上や利益が減っても構わない」と考えるオーナーが少なくないようである。だが、この選択肢を選べば、セブン本部の受け取るロイヤリティは減り、減収減益要因になる。24時間営業というセブンイレブンの金看板も形骸化しかねない。セブンイレブン側から見れば、悪夢のような選択肢に映っていても不思議ではない。

当事者の一方であるセブンイレブンの組織内部からは、利益を重視する企業の論理はもちろん、社内的な上下関係を含めた様々なしがらみがあるため、事態を客観的に捉えることはむずかしいと思う。だが、部外者の目で外から俯瞰してみれば、流れはもうはっきりしている。

目先の利益や「24時間営業=社会インフラ」という企業理念にこだわり、選択肢①に打って出れば、件の加盟店オーナーに勝って(満額かどうかはともかく)違約金を勝ち取ることは可能かもしれない。だがその結果、消費者の心はセブンイレブンから離れ、結局は衰退への最短コースとなるだろう。選択肢②、選択肢③は所詮、一時しのぎにすぎない。好むと好まざるとにかかわらず、セブン本部は選択肢④の方向に進まざるをえなくなると思う。

24時間営業を残したければ、24時間営業を捨てる発想が必要

24時間営業は消費者にとって確かに便利だ。他業態の店で買うより高くてもコンビニで買い物をする人が多いのも頷ける。防犯を含め、コンビニが24時間営業を通して地域社会で貴重な社会的役割を果たしていることにも、素直に感謝したい。コンビニが掲げる24時間営業は、単なるビジネス・モデルを超え、「民間企業による社会インフラの提供」というソーシャル・モデルとしても広く日本社会で受け入れられている。

しかし、便益の裏には必ずコストがある。コストが受容可能でなければ、事業は持続できない。便利だから、というだけで議論すれば、JRも私鉄も地下鉄も24時間、田舎であっても車両を走らせ続けた方がよい、ということになる。もちろん、コストを考えれば、これが釣合いのとれない暴論であることは言うまでもない。

これに対し、「コンビニの場合は24時間営業しても(24時間営業した方が)儲かるので、コストは受容可能と考えられるのではないか?」という議論もありえる。事実、従来はそう考えられてきたのだと思う。でも、時代の推移とともにコンビニを取り巻く環境は大きく変わり、その議論は成り立ちにくくなっている。

セブンイレブンが24時間営業の第1号店を出したのは1975年のことだ。当時、日本の人口は増え続けると誰もが思っていた。「働くことは美徳」「モーレツ社員」という言葉が幅をきかせ、時間外残業も当たり前だった。今日、日本全国には5万7千店を超えるコンビニがひしめき合っている。少子高齢化と人口減少が進み、世は人手不足の時代となった。その深刻さは、移民嫌いの自民党・安倍政権が外国人労働者という名前で実質移民の受け入れを決めたほど。働き方改革とやらのおかげで、長時間労働はタブー視されている。

こうした状況のもと、深夜営業を維持するための人手を確保できなくなっているのは、東大阪のあの加盟店だけではない。24時間営業を行うために必要なコストが受容限度を超えた、と考える加盟店は確実に増加したし、今後も増加する一方であろう。

セブンイレブン本部の方は、フランチャイズ契約のおかげで現場の人手不足に直接悩まされることはない。人手というコストを加盟店に全部押し付ける、というビジネス・モデルは、実によくできた「儲けの方程式」だ。しかし、その方程式は、加盟店側が24時間営業のコストを黙って吸収してくれてはじめて機能する。コスト負担に耐えられず、叫び声をあげる加盟店が増えれば、世の中の批判の目は、加盟店オーナーの奴隷的な労働に依存して24時間営業を続けようとするセブン本部に向かうこととなろう。

セブンイレブンは24時間営業を全面的に放棄すべきだ、と言うつもりはまったくない。だが、原則すべての加盟店に24時間営業を義務付けたまま、2万店を超える店舗網を維持・拡大しようとしても、もう限界に近づいている。

店舗数が2万もあれば、加盟店の体力は当然、それぞれに異なっている。人件費をしっかり払って人手を集め、立地条件も良く十分に儲かっている強い店もあれば、それができない弱い店もある。そこでセブンは次のような選択を迫られることになるだろう。

24時間営業を従来通り、絶対的な善として推進したいのであれば、今後もフランチャイズ契約の中で24時間営業を義務付ける一方、加盟店の数は縮小を覚悟する。あるいは、加盟店の拡大路線を維持する一方、本部に収めるロイヤリティに格差をつけるなどの条件をつけ、24時間営業するかしないかの選択権を加盟店に与える。(※ 昨日のニュースによれば、コンビニ加盟店ユニオンがセブンイレブンに対し、営業時間の短縮などについて団体交渉に応じるよう求めたという。)

いずれにせよ、セブン本部の儲けは減る。しかし、24時間営業を見直すことによってコンビニというビジネスがより持続可能になる、と考えれば、見直しはセブンの経営にとって悪いこととばかりは言いきれない。

 

 

街が眠ることのない都会はもちろん、過疎化の進む田舎でも、コンビニの24時間営業はとても便利だ。最初にコンビニの24時間営業が最寄りの駅の近くにできたとき、「ありがたい」と思うと同時に、「よくできるもんだなぁ」と感心したもの。それがいつしか、「コンビニが24時間営業するのは当たり前」という感覚になってしまった。

今後、コンビニの24時間営業が見直されることになれば、我々は今よりも不便を感じるようになる。だが、加盟店オーナーに理不尽かつ持続不可能な労働条件を強いることで得られる限界的な便利さなど、捨てればよい。そう割り切れなければ、我々も今のセブンイレブン本部と同じ穴の狢、ということだ。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です