25日のポストで、「一定数の外国人が一定期間、日本国内に滞在すれば、日本人の生活や社会制度に大きな影響が出る」という問題意識を述べ、「期間」については1年を基準にすべきだと主張した。今日は「数」の問題を論じる。一体、何人まで、あるいは総人口の何割までなら、日本国に外国人を受け入れるのか?
政府案に外国人受け入れ数の天井はない
今、国会で審議されている外国人労働者受け入れ拡大法案(出入国管理法改正案)には、受け入れ人数に関する規定がない。その意味では、法律上の受け入れ数は青天井だ。山下法務大臣も「数値として上限を設けることは考えていない」と答弁した。
一方で安倍総理は、「当初5年間で最大約34.5万人」という政府の受け入れ想定人数を「上限として運用する」と述べた。ただし、国会答弁は法律ではない。変えようと思えば、後からいくらでも変えられる。
案の定、山下は「大きな経済情勢の変化があれば、例外的に対応を迫られる場合がある」と述べ、期間内での上限引き上げに余地を残して見せた。自民党の田村憲久政調会長代理(元厚労大臣)に至っては、11月18日のNHK討論で「(外国人労働者の数が)足りなければ、またさらに増やすことになる」と事もなげに言ってのけた。
外国人はどれくらい増えるのか?
一方で、政府は「日本における外国人労働者と在留外国人の将来像」について一切語ろうとしない。であれば、こちらで考えるしかない。私に精緻な計算を行う能力はないが、それでも、日本社会の将来像について大まかなイメージをつかむためには、荒い試算でも示さないよりはよいと思う。以下の数字は、そういう前提で読んでいただきたい。
前回も述べたが、5年後に見込まれる145.5万人の人手不足分をすべて外国人労働者で賄うことになれば、日本に住む外国人の数は現在の256.2万人から401.7万人に5割も増加する。総人口に占める外国人の比率も、現在の2%から3.2%に上昇する。
別の試算方法をとれば、数字はもっと大きくなる。2017年末の在留外国人数――外国人労働者を含む――は256.2万人、過去5年間で52.8万人増えている。毎年10.6万人、年率4.7%の増加率だ。この増加率が今後も維持されれば、2027年末の在留外国人数は406.5万人、2037年には644.9万人となる。日本の総人口に占める在留外国人の比率(日本の将来人口推計(平成29年)から計算)は、それぞれ3.4%と5.7%に上昇する。
2008年に自民党の外国人材交流推進議員連盟は、今後50年間で1000万人の移民(通常の居住地以外の国に移動し、少なくとも 12 ヵ月間当該国に居住する人)を受け入れるべきという提言を出した。これが実現すれば、2058年に日本の総人口に占める在留外国人比率は、単純計算で12.8%となる。(移民が日本にとどまるという前提に基づき、[2008年末の在留外国人数(214.5万人)+1,000万人]/ 9,470万人として計算。)
この数字、当時は夢物語のような数字と笑い飛ばされ、あまり深刻に考えられることはなかった。しかし、過去5年間の増加ペース(年率4.7%増)が30年続けば、2047年の在留外国人数は1,016.2万人、総人口の9.7%を占めることになる。今となっては、決してありえない数字とは言えない。ゾッとする。
欧米諸国との比較
では、いったいどれくらいまでなら、外国人の受け入れ増加を認めるのか? 検討のための材料として、OECDの統計から「移民が総人口に占める比率」を下記に抜き出してみた。なお、OECDは移民について、「1年以上滞在する外国籍の人」という定義と「外国生まれの人」(この場合、帰化していても一世であれば、移民にカウントされる)という二種類の定義を用いている。日本の場合、後者の定義は馴染みもなければ、統計も存在しない。前者の定義であれば、日本における在留外国人とほぼ同義と考えても構わないだろう。
移民が総人口に占める比率(%)
(上段は「1年以上滞在する外国籍人口」、下段は「外国生まれ人口」の比率)
2007年 | 2009年 | 2011年 | 2013年 | 2015年 | 2017年 | |
ドイツ | 8.3 | 8.4 | 8.4 | 9.0 | 10.1 | 12.2 |
12.9 | 13.2 | 13.2 | 12.5 | 13.5 | 15.5 | |
オーストリア | 9.7 | 10.3 | 10.8 | 11.8 | 13.4 | 15.4 |
14.6 | 15.1 | 15.4 | 16.1 | 17.4 | 19.0 | |
ハンガリー | 1.6 | 1.8 | 2.1 | 1.4 | 1.5 | 1.6 |
3.4 | 3.9 | 4.4 | 4.3 | 4.8 | 5.3 | |
フランス | 6.0 | 6.1 | 6.3 | 6.5 | 6.8 | 7.1* |
11.4 | 11.6 | 11.8 | 12.1 | 12.3 | 12.6* | |
オランダ | 4.1 | 4.3 | 4.6 | 4.7 | 5.0 | 5.7 |
10.5 | 10.8 | 11.2 | 11.5 | 11.8 | 12.5 | |
英国 | 6.3 | 7.0 | 7.6 | 7.7 | 8.6 | 9.3 |
9.4 | 10.7 | 11.8 | 12.3 | 13.1 | 14.2 | |
米国 | 7.2 | 7.1 | 7.2 | 7.0 | 6.9 | 6.9 |
12.4 | 12.4 | 12.8 | 12.8 | 13.2 | 13.5 | |
日本 | 1.6 | 1.7 | 1.7 | 1.6 | 1.7 | 1.9 |
(International Migration Outlook 2018 (OECD)より抜粋)
*は2016年。日本について「外国生まれ人口」の統計はない。
この数字を眺めて明らかに言えるのは、日本の「移民」(1年以上滞在する外国籍の者)受け入れ水準が欧米対比で非常に低い、ということ。
一方で、この数字だけを見て、「移民」の受け入れ割合がこのあたりを超えたら社会が不安定化する、という一般的な水準を見出すことは困難だ。一国の社会的安定度に影響を与える要素が移民の数だけでないことを考えれば、それも当然であろう。
とはいえ、欧米における移民の増加が社会不安を増大させていることを疑う者はいない。ヒラリー・クリントンやトニー・ブレアなどでさえ、欧州諸国は移民を制限しないと(社会不安を養分とする)ポピュリズムを止められない、と主張するようになったほどだ。
上限は保守的すぎるほど保守的でよい
移民と呼ぼうが、外国人労働者と呼ぼうが、一旦受け入れれば、減らすことはまずできない。日本人にとって、多文化共生という美辞麗句も幻想であろう。「とりあえず増やしてみて、問題が出たら考える」という発想は駄目だ。日本の受け入れ可能な「移民または在留外国人」の水準を検討する際には、極めて保守的な態度で臨む必要がある。
日本が受け入れるべき在留外国人(1年以上生活する者)数が総人口に占める割合は、5%でも十分に高すぎる。5%と言えば、現在の2.5倍の水準だ。
増加のペースも考慮しなければならない。前述のとおり、5年後に見込まれる145.5万人の人手不足分をすべて外国人労働者で賄えば、日本に住む外国人の数は現在の256.2万人から401.7万人に増加し、総人口に占める割合は3%強となる。この水準を5年で実現すれば、5年で5割増という急激な増加ペースだ。それでは社会的なインパクトが大きすぎる。
今後10年から20年で徐々に増やして3%程度、というのが良い線ではないか。もちろん、その間に少子化対策なり、女性や高齢者の労働参加率引き上げなり、技術革新による労働生産性の引き上げなり、打つべき手を本気で打たないとドン詰まりだ。経済の停滞を甘受するか、移民(在留外国人)の増加によって社会を不安定化させるかの選択に追い込まれる。
十分に保守的な上限を法律に明記すること。それを実現することなく、出入国管理法改正案に賛成する自民、公明、維新はとんでもない。それを明記した対案を出せない野党も情けない。