外国人労働者の受け入れ拡大~EUの二の舞は御免こうむりたい

企業が頭を悩ませる労働力不足。それを解消する切り札として安倍政権が進めようとしているのが外国人労働者の受け入れ拡大である。今、「経済成長のためなら仕方ない」と切ったカードが将来、日本社会から安定性を奪うことにならないか、甚だ心配だ。

経済偏重の安易な政策の向こうにあるのが、安倍の言う「美しい国」なのか? 冗談じゃない。

安倍政権の出入国管理法改正

11月2日、単純労働者も含め、外国人労働者の受け入れを拡大するための法案(=出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案)が閣議決定された。

法案は二種類の在留資格を新たに設け、比較的高度人材となる2号の方は無制限で更新可能。家族も帯同可能なうえ、10年滞在すれば永住権取得要件の一部を満たすことになる。1号は単純労働も認められ、有効期間は5年間。ただし、期限が切れたからと言って帰国する保証はない。

法案は今日(13日)、衆議院で審議入りした。早ければ来週中にも衆議院を通過し、どんなに遅くとも年内には成立すると見られている。来年4月に運用が始まれば、農業、介護、建設、造船、宿泊などの14業種で新たな在留資格が付与され、初年度は4万7千人程度の外国人労働者が入ってくる。

「日本は世界第4位の移民大国」ってフェィクじゃないか

今回、外国人労働者受け入れ法案について書くためにググってみたら、「日本は世界第4位の移民大国」というフレーズが目についた。しかし、世界第4位の移民大国、というのはいかにも肌感覚と合わない。で、どういうことなのかと思って元ネタ(OECD統計)を調べてみたら、羊頭狗肉であることがわかった。

OECD統計上の「移民」は国によって定義が異なり、我が国で一般にイメージされる「外国から来て永住している人」とは少し違っている。日本の場合、「国内に居住する外国人」をベースにカウントしているため、在日の特別永住者や外国人労働者、留学生などを含んだ数字である。一方で、米国の場合は「外国生まれの人」が移民としてカウントされている。米国市民権を得ていても、移民一世であれば「移民」扱いとなる。

以上を前提に、OECDは毎年、外国人が加盟国(及びロシア)へ流入した数を調査、公表している。2016年に日本へ入った外国人(旅行者と再入国許可者を除く)の数は42万8千人であった。この数字は、米国(232万人)、ドイツ(172万人)、英国(45万人)に次ぐものだ。そこから、日本は世界(正確にはOECD諸国とロシアの中で)第4位、ということになったものと思われる。

ちなみに、OECD統計は外国人の流出数も調べており、2016年には日本から23万4千人の外国人が退去している。つまり、2016年の日本における在留外国人の増加数(ネット)は19万4千人となる。

「日本は世界第4位の移民大国」が二重に誤解を与える表現であることはもう明らかだろう。第一に、外国人数のネットの増減ではなく、流入数だけを取り出して比較している。第二に――こちらの方がより本質的だが――、年次ベースで外国人流入数を並べてみても「今、ストックベースで外国人が何人いるか」を示すことにはならない。

ところで、同じOECD統計の中には、各国に在留している外国人の数と全人口に占める比率を比較した調査もある。在留外国人の社会的なインパクトを推し量るうえでは、後者の比率にこそ、注目すべきだ。

2017年末、日本国内に居住していた外国人数は238万人。10年前に比べて30万人も増えているが、在留外国人が全人口に占める比率は1.9%にとどまる。一方で、ドイツの在留外国人数は1千万人を超え、全人口の12.2%を占めている。オーストリアの場合、在留外国人数は134万人だが、全人口に占める比率は15.4%にのぼる。スイスでは人口の23.9%(203万人)が外国人だ。欧州では在留外国人比率が二桁の国は珍しくない。逆に、OECD加盟国の中でこの比率が日本よりも低いのは、ハンガリー(1.6%)、スロバキア(1.3%)、トルコ(1.0%)の三か国にすぎない。

今の日本が既に在留外国人を比率としても大量に受け入れているのであれば、「これから外国人労働者をもっと増やしても日本社会がそれほど大きな影響を受けることはない」と考えることも可能だろう。しかし、今日本が受け入れている外国人比率が国際的に少ない方なのであれば、今後それが増えることによって日本社会が欧州同様に不安定化するのではないかという懸念は、より深刻なものとなる。

外国人労働者をどこまで受け入れるのか?

とは言え、江戸時代ではあるまいし、鎖国は時代錯誤だ。国際化した現代を生きていくうえで外国人労働者を一切受け入れないという選択肢が現実的でないことくらい、私にもわかる。

問題は、現状から増やすべきか否か。増やすとすればどの程度まで許容するのか。青天井なのか、上限を設けるのか。上限はどれくらいが適切なのか。

従来は、外国人労働者の受け入れに総量規制は設けず、そのかわり、外国労働者の受け入れは高度人材に限る、というのが基本的な建てつけだった。言ってみれば、質で規制することによって数も制限される、という建前。ただし、技能実習生制度等によって事実上、単純労働の外国人も受け入れが進んでいたことは周知の事実である。

今回、新資格の導入によって単純労働の外国人受け入れが堂々と解禁される。しかも、山下法務大臣は「数値として上限を設けることは考えていない」と言っており、法律上は青天井ということになる。報道によれば、「2025年までに50万人以上の受け入れ増を見込む」という話もあるようだ。今日のニュースは、「最大で来年度1年間でおよそ4万7千人、5年間でおよそ34万人」という新たな想定を政府がまとめた、と伝えた。

しかし、何らかの見込み数字を閣僚が国会で答弁したとしても、それが歯止めになるわけではない。見込みは見込みだ。超えそうになれば、いくらでも増やせばよい。

かつて自民党の外国人材交流推進議員連盟は、今後50年間で1000万人の移民を受け入れるという大胆な計画をぶち上げたことがある。これが実現すれば、日本の全人口に占める移民比率は10%を超える。絶対的なレベルとしてはもちろん、増加のペースとしても、日本社会を不安定化させる可能性が非常に高い。

EUの教訓=社会の不安定化を招かないこと

EUを見よ。2010年代に入って中東方面からの移民――1年以上滞在する外国人の意味である――が急増した結果、社会の不安定化と分断を招き、ポピュリズム政党が台頭する土壌を作った。中国やベトナムなど、アジアから来た外国人であれば、増えても影響はないなどと考える理由はどこにもない。

外国人を一定水準以上受け入れれば、同じ国の出身者同士が集まるコミュニティができるのは不可避だ。古今東西、彼らは受け入れ国の社会に同化しようとするよりも、自己のアイデンティティを主張する傾向が強い。そうなれば、外国人に優しい政策は受け入れ国の人々の反感を買い、受け入れ国の人々に優しい政策は外国人の反感を買うという、欧州や米国で見られるようになった光景が日本でも見られるようになるだろう。

2018年1月1日時点で、国内には統計上把握されているだけで6万6,498人の不法残留者がいる。新たな外国人労働者受け入れ制度の下、これが増加することは必至であろう。受け入れ総数が増えれば、法の網の目をくぐり抜けて残留する者の数も増えるのが道理だ。それに伴って、治安の悪化に対する懸念が高まらないわけがない。

また、現行の社会保険制度のまま、今回の出入国管理法改正案が成立すれば、外国人労働者の家族の医療費も我々が支払うことになる。しかも、日本に来ている家族の分だけならまだしも、母国に住む家族が払った医療費も日本の保険制度に請求できる。海外にいる家族の数を考慮した時、外国人労働者が何百万人単位で増えれば、数倍の人数分を日本の社会保険制度で負担しなければならなくなる。介護や年金についても同様のことが起こりえる。日本国民の間で反発が強まり、外国人コミュニティとの間で社会が分断化することは火を見るよりも明らかだ。

さすがにまずいと思ったのか、政府も外国人の社会保険利用については何らかの制限を考える、と言いだした。しかし、この国会に法案は出て来ず、来年4月にももちろん間に合わない。見切り発車もいいところだ。

外国人労働者の受け入れ拡大に対し、本質的な異議を唱える野党がいない

それにつけても、日本の政治は有権者に選択肢を示してくれない。

安倍政権が成立をめざす法案はひどい内容だ。将来問題を生む可能性が極めて高いことを覆い隠し、「とりあえず始めてみましょう」という態度は無責任極まりない。王道である少子化対策はまじめにやらず、外国人受け入れ増という安易かつ副作用の大きい政策を推進しようというのもふざけた話である。与党もこんな法案の提出を認めてしまった。情けない。自民党はもう、保守だの、右だの、言わないでもらいたい。

だが、見渡せば、野党の方も五十歩百歩か。先日のNHK討論で野党各党は安倍政権が提出した法案の批判に終始した。外国人労働者の受け入れ、あるいは移民政策について自らの立場をはっきり表明した政党は(共産党を含めて)ひとつもなかった。

ガッカリだ。政府批判は徹底的にやっても、経済界や農家などが労働力不足を訴えれば慌てて玉虫色の主張にすり替えるのか? インテリ揃いの野党は、「移民=改革」とでも思っているのか? それとも、トランプやEUのポピュリスト政党と同一視されるのが嫌なのか? そんな八方美人だから、今の野党には迫力がないのだ。

少し前、立憲民主党が「外国人労働者の受け入れ人数に上限を設ける一方、外国人労働者と家族に対する配慮を手厚くする」内容の対案を準備中だと報道されていた。しかし、肝心の受け入れ上限数が聞こえてこない。外国人労働者数の増加が数万人程度にとどまるのか、はたまた数百万人規模なのかによって、日本社会へのインパクトはまったく違ってくる。何百万人も受け入れてその家族の社会保険までわが国で面倒見る、というような「慈善家気取り」であれば、とても付き合っていられない。

せめて、在留外国人数(2017年末で256万人=特別永住者を含む)と不法残留者(同6.6万人)の合計が(例えば)300万人を超えないようにすると法律に明記し、それを超えたら新資格に基づく受け入れは停止する、くらいの修正案は出せないものか。あるいは、定住者と不法残留者の合計を制限したり、総人口に対する比率を指標にしたりするなど、バリエーションはあってもよい。

「在留外国人数+不法残留者≦300万人」を上限にした場合、在留外国人数が日本の全人口に占める比率は約2.3%になる。まあ、いい線ではないか。

高齢者や女性にもっと働いてもらうこと、AIを含めた技術革新に本気で取り組むこと、中長期的には少子化対策に資する大胆な財政投入と制度改革を行うことなどの対策をセットでとれば、労働力不足についても何とかなるだろう。いずれにせよ、外国人を増やして社会が不安定化するリスクを冒すくらいなら、ゼロ成長の方がマシだ。

 

私の議論はポピュリズムっぽいか? いや、転ばぬ先の杖だろう。

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