今日の日米関係は「良い」のか? 

中国は貿易戦争を仕掛けられ、EUは今月中にも報復関税を発動されることになった。メキシコやカナダはNAFTAの大幅改訂を飲まされた。それに比べれば、トランプの対日圧力はまだ「優しい」方だ、と感じている日本人は決して少なくあるまい。925日に日米が貿易協定の締結に合意したことを受け、「今日の日米関係はまあまあ良いんじゃないか」という思いを強くした人もいるだろう。

だが、ちょっと待ってほしい。日本が圧力を受けていないのならともかく、日本に対する圧力が他国に対するものほどきつくないことを理由に「日米関係は良好である」という結論に至るのは、まともな思考でははない。

「今日の日米関係は史上最強」説

政府・与党やメディアの多くは、現在の日米関係を「非常に良好」と表現する。今年5月にトランプが来日した際も、安倍は「親密な個人的信頼関係により、日米同盟のきずなは揺るぎようがない」と胸を張った。外務省のホームページに至っては、9月25日に行われた日米首脳会談で両首脳が「日米同盟が史上かつてなく強固であるとの認識を再確認」した、とまで書いてある。

米中の貿易戦争は今や投資の分野にまで拡大しつつあり、着地点が見えない。トランプはカナダ、メキシコ、欧州などの同盟国首脳をも口汚い言葉で罵り、従来考えられなかったような要求を突きつけては様々な二国間関係にストレスを生じさせている。

こうしたアメリカ・ファーストの姿勢は日本にも向けられている。今回の日米貿易協定もその反映だ。しかし、トランプの要求リストの本丸部分(自動車)について、日本は交渉の先送りを許された。安倍に向けられてきたトランプの言葉(ツイッターを含む)も、イスラエルを除く他国首脳に対するものと比べれば、明らかにゆるい。その意味では、今日の日米関係を良好と呼ぼうと思えば、呼べないことはない。

だが、今日の日米関係を良好と呼ぶのは、やっぱり何かしっくりこない。その理由をはっきりさせるため、21世紀に入ってからの日米関係を時系列でごく簡単に振り返ってみたい。

21世紀の日米関係を振り返る

〈小泉―ブッシュ時代〉

この時代の日米関係は、確かに良好だったと言える。

外交安全保障面では、9.11を受けて対テロ戦争の遂行を推進した米国に対して、小泉政権は自衛隊をインド洋(アフガン戦争)やサモア(イラク戦争)に派遣し、目に見える貢献を行った。自衛隊は前線に出て戦ったわけではないが、湾岸戦争で「トゥーリトル、トゥーレイト」「キャッシュ・ディスペンサー」と揶揄された日本とは大違いだった。

経済面でも、日本脅威論が喧伝され、1980年代のように日米貿易摩擦が燃え盛った時代はもう過去のものだった。バブル崩壊後の「失われた10年(←その後も続いた)」を経て日本経済の相対的地位が低下した一方、双子の赤字に苦しんでいた米国は、冷戦終結に伴う平和の配当とIT経済の急速な伸長によって経済大国としての自信を取り戻していたのである。

小泉とブッシュの個人的関係も良かった。二人のケミストリーが合っていたことはつとに有名である。小泉のカウンターパートがオバマやトランプであったなら、ここまで緊密な関係とはならなかったに違いない。ジャック・シラク(仏大統領)やゲアハルト・シュレーダー(独首相)はブッシュの単独行動主義をきびしく批判していた。ブッシュにとって、トニー・ブレア(英首相)と小泉純一郎は、単に気があるだけでなく、外交の世界における盟友でもあった。

〈政権交代前〉

小泉は2006年9月に首相を退任する。その後の3年間で首相を務めた安倍晋三(第一次)、福田康夫、麻生太郎の下でも、日米関係の基本は変わっていない。

ただし、2007年の参院選以降、「ねじれ国会」の状況によって日本政府は日米間の約束事を円滑に遂行することができなくなった。福田内閣はテロ特措法の更新に失敗し、インド洋で自衛隊が行っていた米軍艦船への給油活動は3か月以上中断した。ブッシュの方も政権2期目の後半では支持率が低迷し、レイムダック状態に陥った。

小泉以後の3人の日本の首相とブッシュの間に緊密な関係が生まれることもなかった。日本側の首相はほぼ一年おきに交代したうえ、ブッシュとの間でケミストリーが一致する性格の持ち主もいなかったためだ。

〈民主党政権時代〉

2009年1月に米国ではオバマ大統領が就任した。同年8月末に行われた総選挙の結果、日本では2012年12月まで民主党が政権を担うことになる。

民主党は選挙時のマニフェストで、地位協定の改定、普天間代替施設の再検討、駐留米軍経費の削減、東アジア共同体の創設などを訴えていた。こうした対米自立路線が日米同盟に緊張をもたらしたことは言うまでもない。特に、鳩山由紀夫総理が普天間代替基地の辺野古移設案を見直して「最低でも県外」を実現しようとしたことは、日米関係を一気に冷え込ませた。加えて、民主党政権の統治能力欠如が日本政府に対するオバマ政権の不信感を増幅した。

その後、菅直人、野田佳彦の両総理はマニフェストで掲げた対米政策を事実上、封印した。鳩山の躓きに懲りたことが直接の理由だが、2010年秋の尖閣船長事件やメドベージェフ露大統領による国後島訪問など、中国やロシアとの間で緊張が高まったことも彼らの背中を押した。しかし、民主党政権に対するオバマ政権の態度は最後まで醒めたままだった。

民主党政権の3人の首相とオバマ大統領の間に個人的信頼関係が築かれることもなかった。日本側にも問題があったのは事実だが、オバマ自身も外国首脳と個人的に親しくなるような性格ではなかった。

〈安倍―オバマ時代〉

2012年12月の総選挙で安倍・自民党が政権に返り咲く。

安倍は日米関係の立て直しを唱え、米側もそれを歓迎した。中国の軍事的台頭が顕在化する中、オバマ政権は(少なくとも公式には)アジアへのリバランス戦略を打ち出していたからだ。とは言え、「米国は世界の警察官ではない」と表明したオバマの米国は、国際秩序に積極的に関わるよりも内政を重視する傾向が顕著だった。また、安倍内閣の歴史認識や靖国参拝に対する態度はオバマ政権にとって不快かつ危険なものと映っていた。

経済面ではオバマ政権がイニシアチブをとったTPPに日本政府も乗り、共に自由貿易を推進しようとした。2018年3月にはTPP11協定の署名に漕ぎつけている。

安倍とオバマの個人的関係は緊密と呼べるものではなかった。オバマは実務的な人間だったし、右翼的志向を持つ安倍と基本的にはリベラルなオバマの相性が良いわけもなかった。

〈安倍―トランプ時代〉

2017年1月、ドナルド・トランプが米大統領に就任する。

トランプはアメリカ・ファーストを掲げ、中国のみならず、同盟国との間でも摩擦を起こすことを厭わない。現在までのところ、日本はトランプを持ち上げ、米国からの武器調達など早期にトランプの要求に応じることによって、トランプの標的となることから免れてきた。

ただし、トランプ政権は日本に対して在日米軍駐留経費の大幅増――ボルトン大統領補佐官(当時)は来日時に5倍増を吹っかけた――を要求している。北朝鮮に対しても、2018年春までは米朝間に軍事衝突を起こしかねないほど緊張を高めて日本側の懸念を高めていたが、今は北朝鮮が中距離以下のミサイル開発を進めるのを問題視しなくなり、別の意味で日本側を心配させている。客観的に見れば、安全保障面で日米同盟の平仄が合っているとはとても言えない。国際秩序に対するトランプ政権の軍事的なコミットメントも、(オバマがやらなかった)シリア空爆に踏み切った以外は概して消極的である。

トランプは経済面でも日米関係は緊張を持ち込んだ。トランプは就任するやTPPからの脱退を表明。二国間でより米国に有利な貿易協定を結ぼうと画策してきた。

安倍とトランプの個人的関係は、表向き良好ということになっている。だが、二人の間に盟友関係と呼ぶような強い紐帯があるのかは疑問だ。ただし、中国だけでなく多くの同盟国の首脳と仲が悪いトランプにとって、安倍は「仲間」を演出できる数少ない首脳の一人。安倍もトランプとの良好な関係をアピールすることによって米国の要求を値切ろうとしているように見える。二人はお互いに相手のことを「利用するのに都合のよい人物」と考えているのではないか。

 

こうして時系列で見ると、今日の日米関係が良好であるとはとても言えない。日米双方が――安倍もトランプも、両国の官僚たちも――同盟関係の綻びが表面化しないよう画策し、それが比較的うまくいっているだけの話だ。今日の日米関係を良好と呼ぶのに抵抗を感じるのは、当然のことであった。

日米関係はトランプ大統領の誕生によって変質したというわけでもない。米国が内向きになる兆候はオバマの時代から既に顕著だった。来年の大統領選挙でトランプが再選されなくても日米関係が元に戻ることはもうない、と思っておくべきだ。

日本人は意外にトランプがお好き?

少し前の話になるが、5月25日から28日まで、新天皇が迎える最初の国賓としてドナルド・トランプ大統領が日本を訪れた。それからほぼ一週間後、トランプは国賓待遇でエリザベス女王に招かれ、訪英している。

日本と英国でトランプを迎えた両国民の態度は随分違って見えた。少なからぬ英国人はトランプの訪問を歓迎しなかった。ロンドンでは数千人規模でトランプに抗議するデモが行われ、ガーディアン紙は「トランプはデマゴーグ(扇動家)であり、歓迎しない」と突き放した。

一方、日本でのトランプは、天皇陛下との会見や日米首脳会談といった「真面目な」政治日程だけでなく、ゴルフ、大相撲観戦、炉端焼きなどの「軽い」イベントによってテレビや新聞などを完全にジャックした。(傍らには選挙目当てでトランプに寄り添う安倍晋三が微笑んでいた。)メディアも野党も、安倍の「過剰接待」を批判することはあっても、トランプその人を非難する素振りは見せなかった。日本人がトランプを見る目も、概して温かかった――少なくとも、厳しくはなかった――ように思われた。

昨春行われた米国ピュー・リサーチの調査によれば、国際政治面でトランプ大統領を信頼できると答えた日本人の比率(30%)と英国人のそれ(28%)の間に大差はなかった。一つ考えられるのは、日本人が過去一年間でトランプに対して好意を持ち(トランプに対する反感を和らげ)はじめたということ。上記調査の2017年と2018年の数字を比べれば、その萌芽を読み取れないこともない。

<米国大統領が国際政治面で正しいことをしている、と思う人の比率>

2016年(オバマ) 2017年(トランプ) 2018年(トランプ)
日本 78% 24% 30%
英国 79% 22% 28%
ドイツ 86% 11% 10%
フランス 84% 14% 9%
カナダ 83% 22% 25%
韓国  88%(2015年) 17% 44%

各国とも数字はオバマ政権末期から急落している。だが、ドイツやフランスではトランプ大統領の就任2年目となる2018年にもさらに低下しているのに対し、日本ではやや持ち直している。なお、韓国の数字がトランプ2年目で跳ね上がっているのは、米朝首脳会談によって米朝関係が最悪期を脱したことの影響と思われる。

本稿では、日本人がトランプに抱く「好意」の理由について考える。(特に明記しない限り、米国や米国大統領に対する諸外国の評価に関する数字はピュー・リサーチの調査を、米国内での大統領支持率についてはギャラップ社の調査を使用した。)

反国際協調の不人気と政権持続可能性

米国大統領に対する日本人の信頼は、当該大統領が国際主義に背を向ける場合に明らかに低下するほか、当該大統領の国内的な権力基盤が失われた際にも低下する傾向が見てとれる。

例えば、単独行動主義(ユニラテラリズム)を掲げたブッシュ・ジュニア。2011年の同時多発テロ後、ブッシュの支持率は9割近くまで急騰した。しかし、二期目に入いると支持率が5割を超えることは基本的になく、政権末期には3割前後まで下がってレイムダック(死に体)化した。「ブッシュ大統領は国際政治で正しいことをしている」と答えた日本人の比率も、2006年は32%、2007年は35%と低水準で、支持率が3割を切った2008年には25%にまで下がった。(2004年以前の数字は不明。)

バラク・オバマ大統領は――客観的にみると、国際的な責任に背を向けた国内重視の姿勢が目立ったのだが――、単独行動主義を標榜したブッシュの後任であり、イラクからの米軍撤退を進めたということを以って、日本では国際協調を重視した大統領とみなされた。その結果、就任1年目と3年目には日本人の8割以上が「オバマ大統領は国際政治で正しいことをしている」と答えた。就任当初6割を超えていたオバマの支持率は、2年目に入ったころから5割を切って低迷するようになる。オバマ大統領を評価する日本人の比率も、2014年には60%まで低下した。

トランプはどうか? 「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプの政策や行動スタイルは、国際協調主義とは対極にあると言ってもよい。大統領支持率も、2017年1月の就任時で45%。いわゆる「ハネムーン」期間のご祝儀もなく、その後、同年夏から年末にかけ、支持率は35%近辺まで下落した。しかも、この頃は「ロシア疑惑で弾劾されれば、任期途中で辞めざるを得なくなる」という見方も少なくなかった。2017年に「トランプ大統領は国際政治で正しいことをしている」と考える日本人の割合は24%しかなく、オバマ政権末期の78%から急落したばかりか、ブッシュ政権末期の数字さえ下回る。

ところがその後、トランプは意外なしぶとさを見せる。米国内での支持率は底割れすることなく、2018年の春頃から徐々に上がった。ロシア疑惑の一応の終結や経済の拡大などを背景にして、今年4月段階では46%と就任以来の最高を記録した。(と言っても50%に届かない低水準ではあるが・・・。)先月末に行われたCNNの調査でも、トランプが再選されると思う人の割合は54%、負けると思う人は41%だった。

「日本は特別」という意識~日本叩きは比較的温い

トランプ大統領は就任以来、イスラエルを除く世界中の国々と摩擦や対立を引き起こしてきた。そして、自国に厳しい態度をとる国やその指導者に対して当該国民が好意を抱かないことは当然である。ピュー・リサーチの調査では、移民問題やNAFTAでトランプから目の敵にされているメキシコでは、「米国大統領が国際政治面で正しいことをしている」と答えた比率は2017年で5%、2018年も6%にすぎない。2015年(オバマ大統領)の49%から大幅に下落した。トランプからNAFTAや関税問題でやり玉にあげられたカナダでも、2018年における上述の数字は25%となり、2016年(83%)から58%も下がった。逆に、トランプが唯一肩を持つイスラエル国民の69%は、2018年段階で「トランプは国際政治面で正しいことをしている」と高く評価した。オバマ政権がイスラエルに冷淡な態度をとった2015年には、この数字は49%まで低下していた。

日本はどうか? もちろん、2018年3月に発動された鉄鋼・アルミ追加関税は日本企業にも適用されたし、現在、日米間で物品貿易協定(TAG)交渉が行われていることは周知の事実である。しかし、これまでのところ、日本はトランプのあからさまな「標的」となっていない。同盟国の中では、前述のメキシコやカナダはもちろん、欧州諸国に比べても日本への圧力は少ない方だ。

日本がトランプから「大喧嘩を仕掛けられる」ことを免れる一方で、トランプは日本人が嫌いな国に対してそれこそ「大喧嘩を仕掛ける」ようになった。具体的には、北朝鮮と中国である。

「敵の敵は味方」に通じる感覚~日本人が嫌いな国を叩くトランプ

〈北朝鮮〉
北朝鮮は日本人が最も嫌っている国、と言ってよいだ。諸外国に対する日本人の意識を問う調査としては、内閣府の「国際問題に関する世論調査」が有名である。だが、同調査には北朝鮮について敢えて好感度を問う設問がない。少し探してみたら、今年1月21日に日本経済新聞が発表した世論調査で北朝鮮に対する友好意識を尋ねていた。その結果は、「好き」「どちらかといえば好き」という回答が0%。「どちらかといえば嫌い」が12%、「嫌い」が71%であった。

その北朝鮮に対し、トランプ政権は「最大限の圧力」を標榜し、軍事的先制攻撃を排除しない姿勢を示す一方で中国などを巻き込む形で経済制裁を極限まで強化した。北朝鮮も核・中長距離ミサイルの実験を繰り返したため、2017年末から2018年初めにかけては米朝軍事衝突が起きても不思議ではないと思われるほど緊張が高まる。しかし、その後急転直下、2018年6月にシンガポールでトランプと金正恩が会談。そのあたりから、北朝鮮は核実験と中長距離ミサイルの発射を控えることになった。米国の方は北朝鮮攻撃も辞さない姿勢を見せなくなった一方、金正恩が求める経済制裁の緩和には応じていない。(ただし、中国や韓国、ロシアなどの制裁破りについては、ある程度多めに見ているような印象である。)

多くの日本人の目には、トランプは日本人が脅威と感じる北朝鮮から核実験やミサイル発射のモラトリアムを引き出す一方で、日本人が大嫌いな北朝鮮に対して今も経済制裁を緩めず圧力をかけ続けているように見える。しかも、昨年春以降、それまであった戦争前夜のような重々しい雰囲気は遠のいている。誤解を恐れずに言えば、現在の米朝関係は多くの日本人にとって「ほど良い」緊張にある。

どの程度本気かはわからない――おそらく、日本政府に貸しを作るくらいのつもりなのだろう――が、トランプは拉致問題への言及も忘れることがない。その面でも、多くの日本人の目には、バッド・ガイではなく、グッド・ガイに映っている。

〈中国〉
日本にいると、中国は危険な存在という見方が支配的だ。しかし、ほかの国でも中国が日本同様に嫌われているわけでは必ずしもない。下記のピュー・リサーチによる調査が示すとおり、欧米市民の対中観はおおまかに言って二分されている。

中国に対する好感度
(上段は2018年春、カッコ内は2010年の数字。ただし、カナダのカッコ内は2009年の数字)

とても好き やや好き やや嫌い とても嫌い
日本 2% 15% 48% 30%
(2%) (24%) (49%) (20%)
米国 5% 33% 32% 15%
(10%) (39%) (24%) (12%)
カナダ 6% 38% 32% 13%
(8%) (45%) (27%) (11%)
英国 10% 39% 24% 11%
(8%) (38%) (26%) (9%)
ドイツ 3% 36% 46% 8%
(2%) (28%) (46%) (15%)
フランス 4% 37% 36% 18%
(6%) (35%) (35%) (24%)
韓国 2% 36% 50% 10%
(1%) (37%) (46%) (10%)

この表を見れば、中国嫌いという点において日本は世界でもトップクラス、ということがわかる。

その中国に対し、トランプは就任2年目の昨年あたりから照準を定めるようになった。2018年3月の鉄鋼・アルミ関税引き上げに始まり、今年5月まで4次にわたる対中関税引き上げ措置、昨年4月のZTEに対する米国内販売禁止、ファーウェイに対する露骨な圧力(カナダにおける2018年末のファーウェイ創業者の娘の逮捕、今年5月の米企業に対するファーウェイとの取引禁止命令など)が具体的な事例だ。詳細については今年4月から5月にかけて5回に分けて書いた米中新冷戦論(特に、5月12日付及び5月26日付)をご覧いただきたい。

米中貿易戦争が世界経済、ひいては日本経済に対して悪影響を与えることは言うまでもない。本来なら、トランプ主導の米中経済対立は日本にとって「迷惑」なものであるはずである。しかし、今のところ、その悪影響がなかなか顕在化してこない。米国の株式市場も(一時的に下げることはあっても)基本的には堅調さを保っている。日本経済も、決して良くはないものの、消費税対策の大規模財政出動が下支えしていることもあり、少なくともこれまでのところ、底割れする気配は見せていない。

多くの日本人にとって、トランプは自分たちが嫌いな中国に対して喧嘩を売り、中国を守勢に回らせているように見えているはず。しかも、米中経済対立の余波で日本経済が大打撃を受けるような事態には至っていない。日本人としては、安心してトランプを「日本に代わって中国を懲らしめる水戸黄門」に重ね合わせることができる。

これから

では、日本人のトランプ大統領に対する評価はこれからどう変わっていくのか?

まず、トランプが今後、日本に矛先を向ける可能性について。トランプが選挙戦で追い込まれ、対中政策などで成果が出ない状態が続けば、貿易や武器調達、防衛費増などで日本に過激な要求を突き付けてくる可能性は皆無ではない。しかし、安倍政権は米国の要求を早めの段階で聞き入れ、日米対立がトランプによって「劇場化」されるのを防いできた。安倍がトランプと闘うと決意しない限り、日本人がトランプに大きな反感を抱くきっかけはできにくい。

トランプがアメリカ・ファースト、すなわち自国の国益(より正確にはトランプにとっての国益)の追求を最優先する姿勢を変えれば、米国大統領に国際協調路線を期待する日本人のトランプ支持は大きく跳ね上がることになる。だが、もちろん、トランプがアメリカ・ファーストを捨てることはない。

一方で、米中の覇権争いが長期化することは必至だ。トランプ政権内には中国の台頭を抑えつけなければ米国の覇権が失われるという危機感を持った政策担当者が多い。トランプ自身も再選のために貿易面で中国と闘う姿を見せ続けようとするに違いない。もちろん、トランプには再選に向けて「成果」を出したと主張したい気持ちもあるだろう。その意味では、米中貿易戦争について近い将来、何らかの手打ちが行われても不思議ではない。しかし、米中蜜月を演じ続けることは、トランプの再選戦略上も、常に緊張と予測不能性を作り出して自らを主役の座に置き続けなければ気が済まない、というトランプ自身のディール・スタイルからも、あり得ない話。米中摩擦は、小康状態を挟むことはあっても長期的に続くと思っておくべきである。

米朝関係にも同じことが言える。トランプ政権が制裁を大幅に解除するのは、北朝鮮が核と中長距離ミサイルの開発をやめた時のみ。だが、それは北朝鮮にとって武装解除に応じることを意味している。金正恩が受け入れることはないだろう。かと言って、北朝鮮が核実験や中長距離ミサイルの発射といったトランプ政権のレッドラインを超えることも考えにくい。米朝関係も当面、現状維持が最もありそうなシナリオだ。

トランプは近い将来、日本人の嫌いな北朝鮮と中国との間で緊張状態を保ち続ける可能性が最も高い。そうだとすれば、日本人のトランプに対する評価は一定程度下支えされることとなろう。

日本におけるトランプ人気を左右する要因のうち、最も変動するのはトランプ再選の見通しかもしれない。4月末時点で46%まで上昇したトランプ大統領の支持率は、5月末時点では40%にまで低下した。党派色のないクイニピアック大学(コネチカット州)が6月11日に発表した世論調査の結果も、2020年の米大統領選挙でトランプ大統領は6人の民主党候補にリードを許している、というものであった。中でも、ジョー・バイデン前副大統領との差は13ポイントもあり、ミシガン、ペンシルバニア、テキサスなどの重要州でもトランプが後塵を拝していたと言う。トランプ陣営が行った別の調査でも、17州で壊滅的な数字が出たと伝えられている。

今後、トランプの支持率が下がって再選の見通しがきつくなるようなことがあれば、日本人がトランプに注ぐ目は厳しくなりそうである。長いものに巻かれるのも日本人によくある話なら、溺れる犬(政治家)を叩くのも日本人の特徴だからだ。

何が起こるか、見てみよう――。トランプ流に言えばこうなる。

令和の始まりに考える「米中冷戦」論 ④ ~ 米中対立と国際関係

米中対立は徐々に激しさを増し、予見しうる将来、終わることはなさそうに見える。では、米中対立が国際的な権力政治にどのような影響を与えるのか――?
5回シリーズの4回目となる今回のポストは、この点に焦点を当てる。

変わる米中関係の基本構図

1970年代初頭に米中和解が成立して以降、1978年に改革開放路線に転じてからもずっと、米中関係の基本構図は次のようなものであった。

すなわち、基本的に発展途上国であった中国はひたすら米国を追いかける。遥か先方を走る米国は中国の戦略的価値と巨大市場の経済的価値を利用する一方、貿易慣行や人権政策など中国が抱える問題を大目に見た。

ところが、21世紀に入ってこの構図は大きく書き換えられた。
中国経済は急速な拡大を続け、米国経済にほぼ追いつく。自信をつけた中国は外交や軍事の面でも自己主張を強めた。
片や米国の方は圧倒的なリードを追いつかれて余裕をなくす。中国と組んでソ連に対抗する、という冷戦期にあった替えがたい戦略的価値も失われた。
米国が中国を対等なライバル視するようになったのは、ある意味で自然な成り行きだった。米国はオバマ政権の後半あたりから南シナ海方面で中国に対する軍事的牽制を徐々に強めた。トランプ政権がなりふり構わず中国に貿易戦争を仕掛けているのは周知の事実だ。

習近平の対応

攻勢を強めるトランプ政権に対し、中国・習近平政権の対応は大きく言って二つあるように思う。

一つは、トランプをなだめ、すかして米国の圧力をかわすことだ。

2017年11月にトランプ大統領が訪中した際には、ボーイングからの300機購入を含め、中国は米国から28兆円以上を購入する商談をまとめた。しかし、2018年以降、トランプ政権は中国を標的にした関税引き上げに踏み切っている。結局、中国はトランプをなだめ、すかすことには失敗した、ということになる。
中国は関税引き上げ合戦において、自ら先に動くことはせず、あくまで米国が対中輸入にかける関税を引き上げたことへの対抗措置として、米国からの輸入に対する関税を引き上げてきた。貿易戦争の拡大が自らにとって不利である以上、この分野で中国は今後も受動的な対応を続けることになるだろう。

中国に対するトランプの攻勢が避けられないのであれば、習近平としてはもう一つの対応に取り組むしかない。それは、軍事的にも経済的にも、米国に対中包囲網を作らせないことだ。

米ソ冷戦期のNATO(軍事)やCOCOM(経済)のような西側ブロックが形成されれば、中国にとっては打撃が一層大きくなる。逆に、米国以外の国々との関係を維持・強化できれば――例えば、他国が米国の対中関税引き上げに追随しなければ――、米国から圧力がかかってもその影響は致命的なものとまではならない。
そこで中国は、米国以外のパワー・センターに対して(宥和的な姿勢をとってでも)米国に同調しないよう働きかけようと真剣になる。

米国以外の国々も、「世界の工場」「世界の市場」になった中国と一方的な対立関係に入ることを決して望んではいない。もちろん、だからと言って現時点で世界一の超大国である米国を無視することもできない。米国の同盟国であれば、なおさらそうだ。米国以外の国々の大部分は、米中のバランスをとろうとする動きに出ざるをえない。

これが米ソ冷戦期であれば、仮にソ連が働きかけたとしても、日本や欧州諸国がソ連寄りの政策をとることは事実上不可能であった。例えば、鳩山一郎内閣の時、ソ連は北方領土交渉を通じて二島返還での手打ちを持ちかけた。鳩山や重光葵外相は応じてもよいと思ったが、米国の反対――「ダレスの脅し」と言われている――にあって四島返還を結局譲らなかった。(その結果、二島も返らないまま今日に至っていることは言うまでもない。)

しかし、今日の国際情勢は当時と異なる。日欧などの同盟国であっても、米国に気を遣いながらも、中国との関係を(決定的に)悪化させることはできない。米国も冷戦期のような安全保障上の絶対的守護者ではない。日欧にかけられる圧力にも自ずから限度がある。

米国の同盟国が米中の狭間でバランスをとる際、実際の対応には国によって温度差が出る。5月16日付の日経新聞記事は、米国のHUAWEI排除をめぐる米同盟国の対応を三つのカテゴリーに分類しているので紹介しておく。第一は、豪州など、米国に追随して5G規格からHUAWEIを締め出す国。日経は日本もこのグループに属するとした。第二は、英国など、HUAWEI製品の中でも情報漏れの危険があるものに限って排除するグループ。第3は、HUAWEIを監視しつつ、その排除には慎重なドイツなど。

続けて以下では、主要国(地域)と中国の間の最近の動きや将来の見通しを簡単にチェックしておこう。

日中関係~思いがけぬ小康

21世紀に入り、日中関係は緊張する局面が明らかに増えた。特に、民主党政権下で起きた尖閣漁船事件(2010年9月)と尖閣国有化(2012年9月)によって日中関係は目に見えて悪化した。さらに、歴史問題を含めて反中ナショナリズムの強い安倍政権が続く中、両国の関係は一層冷却化する。この間、中国は軍備拡張と西太平洋(南シナ海、東シナ海)への進出を継続し、日本は安保法制の整備や装備の近代化を進めた。その背景には「急速に台頭する新興の大国・中国」と「停滞する既存の大国・日本」が隣接しているという地政学的要因があった。

2013年1月には中国海軍が自衛隊の護衛艦にレーダーを照射する事件も起き、両国は緊張の管理に動き出した。2014年11月に日中は四項目の文書に合意し、APECを利用して安倍と習近平が約2年半ぶりの首脳会談を開催する。ただし、その後も日中関係に具体的な進展はなく、四項目文書の一つで合意した防衛当局間の海空連絡メカニズムの運用が始まることもなかった。

ところが、トランプ政権が中国に対する関税を引き上げはじめた頃から、事態は急に動き始める。2018年5月に来日した李克強首相は海空連絡メカニズムの運用開始に同意した。同年10月には、国際会議出席を除いては日本の首相として11年ぶりとなる安倍の中国公式訪問が実現。習近平は日中関係が「正しい軌道」に戻ったと指摘し、安倍も「完全に正常な軌道へと戻った日中関係を新たな段階へと押し上げていく」と強調するようになった。

中国としては、米国が関税引き上げなど「貿易戦争」を仕掛けてくる中、国別では世界第3位の経済規模を持つ日本市場にまで戦線が拡大することは是が非でも避けたい。長期にわたってゼロ/低成長を続ける日本も、中国との全般的な関係悪化が昂じて日中の経済関係に波及するのは困る。ミサイルをはじめ、中国の海空能力が質量ともに飛躍的に伸びた結果、日中間で不測の事態が起きれば日本側の被害が避けられない状況になってきたことも日本政府を慎重にさせつつある。

かくして、米中貿易戦争を奇貨として日中は関係改善に乗り出すことで利害の一致を見た。もちろん、だからと言って、今日の日中関係を「良好」と呼ぶのは間違い。例えば、中国公船等による尖閣諸島周辺の領海及び接続水域への侵入回数は、今年に入って増加傾向にある。上述の地政学的な要素が解消しない限り、日中関係の底流には緊張が流れ続ける。

今後は、トランプ政権が5Gからの一層のHUAWEI締め出しを求め、日本がそれに応じた場合など、日中関係が再び緊張する場面もあるかもしれない。ただし、その場合でも中国は日本を完全に米国側に追いやるわけにはいくまい。日本も中国市場を失ったら元も子もない。米中の対立関係が続く限り、日中関係の悪化には歯止めがかかり続けるであろう。

中欧関係~試される団結

2017年時点で米国経済は世界の24%、中国経済は15%を占めていた。米国との貿易戦争を生き残るためには、中国は米国以外の国々との経済関係を維持・強化する必要がある。その点、世界経済の22%を占めるEU経済圏を確保することは中国にとって極めて重要性が高い。(日本経済は世界の6%である。)

実際、中国は欧州諸国との経済関係強化に本腰を入れている。去る3月、習近平はイタリア、モナコ、フランスを歴訪した。最初の訪問国イタリアで「一帯一路」構想に対する支持表明を獲得したことは、少なくとも政治的には最大の成果である。今後、東欧諸国を中心に一帯一路構想に参加する国は増加するかもしれない

今回の訪欧でも、中国は自らの巨大な経済力を交渉の梃子にした。習はコンテ伊首相との間で港湾への投資などを含む29の覚書に署名。フランスでは、エアバス300機の購入を含め、約5兆円の商談をまとめたほか、フランスからの鶏肉輸入も解禁している。

もっとも、欧州諸国が無条件に中国になびく気配は見れれない。米中のバランスをとるという配慮に加え、EU自身も中国の貿易投資ルール――特に、中国へ進出する欧州企業が強制的に技術移転させられること――には強い不満を抱いている。欧州は日本と異なり、中国から直接的な安全保障上の脅威を感じていないが、中国のビジネス環境に対する是正要求においては、日本よりも遥かに自己主張する。

パリで習近平を迎えたマクロン仏大統領、メルケル独首相、ユンケルEU委員長の発言からは、米国との貿易戦争を戦うために中国が自らに接近してくることを利用して、中国から譲歩を引き出そうという姿勢も窺われた。4月9日、EUはブリュッセルに李克強首相を迎えて首脳会議を開催。中国側の反対を押し切り、中国の補助金改革などを合意文書に盛り込むことに成功した。

だが、中国もしたたかだ。4月12日、クロアチアに向かった李は中東欧16ヶ国との首脳会議「16+1」に出席し、インフラ投資や貿易拡大などを謳った。経済規模が小さく、中国の「飴」に弱い国々から搦めとろう、という意図が透けて見える。

中ロ関係~「米国の脅威」が接着剤に

第二次世界大戦を共に戦い、ソ連を兄貴分として共に共産圏を形成したソ連と中国。だが程なく、スターリンと毛沢東は激しい対立関係に陥り、国境をめぐる軍事衝突も起きた。1970年代初頭、ニクソン/キッシンジャーと毛沢東/周恩来は米中関係を正常化し、「米国+中国」対「ソ連」の構図を作り出す。この外交革命は、冷戦におけるソ連の敗北を決定づける一大要素となった。

冷戦が終わると、中国とロシアは過去の対立を徐々に解消していく。中でも、2008年までにすべての中露国境を確定させたことは特筆に値する。2001年には中露が中心になって上海協力機構を創設した。(前身となる上海ファイブの結成は1996年。)中ロ関係の改善は、国境問題などの対立が両国にとって大きな負担になっていたことに加え、米国を牽制するという側面が少なくなかった。冷戦後、圧倒的な経済力と軍事技術力を見せつけた米国との間で、中国やロシアは少なからぬ利害の対立を抱えていたのだ。

その後、2010年代になると中国及びロシアと米国は次第に顕在化してくる。
先に対立が決定的なレベルまで高まったのは米露関係だ。天然ガスの供給停止から暗殺、戦争まであらゆる手段を使って旧ソ連諸国に対する影響力を維持しようとするロシアを米国は激しく非難。プーチンが権威主義的支配を強めることについても米国(特に民主党)は不快感を露骨に示した。両者の対立は、2014年のクリミア併合で後戻りできないところまで悪化する。米国が自らの支配を覆そうとしていると信じるプーチンは、2016年の米大統領選挙にサイバー攻撃を応用した工作を仕掛け、プーチン批判の急先鋒だったヒラリー・クリントンを落選させることに成功した。独裁者好きのトランプ、という要素を除けば、今日の米ロ関係は凍りついていると言ってよい。

一方で、米中関係はオバマ政権の後期あたりから対立の局面が目立つようになった。トランプ政権が貿易戦争と言われる関税引き上げ合戦やHUAWEIへの制裁が繰り広げられている今では、米国や世界のメディアが「米中冷戦」という言葉を使う有り様だ。
米国の強硬姿勢は、トランプ自身の「ディール感覚」のみに基づいているのではない。中国を戦略的脅威と捉える見方は、トランプ政権の内部で共有された見解である。そればかりか、民主党を含め、米議会でも広く共有されはじめている。
中国指導部は当初、トランプの圧力を何とか誤魔化しながらやり過ごせばよい、と考えていたようだ。しかし、国力を消耗させる対立の長期化が決定的になった今、降りかかる火の粉を払う決意を固めているに違いない。今月初め、大詰めに差し掛かっていると考えられていた米中貿易協議で中国側が「ちゃぶ台返し」に出たのは、中国側が米国に対して「売られた喧嘩は買う」と表明したようなものであった。

米ロが厳しく対立し、米中も緊張が高まれば、何が起こるか? 国際政治の教科書的には、中国とロシアの間で「敵の敵は味方」という考え方が台頭してきても何ら不思議はない。

既に述べたとおり、冷戦後の中ロ間には既に協調の芽が散見されていた。だが、これまで米国内では「歴史的、文化的、地政学的な対立があるため、中国とロシアが同盟または協商的な関係にまで緊密になることはない」という見方の方が常識とされてきた。例えば、ジェームズ・マティス前国防長官なども、モスクワと北京の間には利害の自然な不一致がある、と絶えず強調していたと言う。しかし、最近は事情が変わりつつある。昨年12月のグラハム・アリソン論文最近のForeign Affairs論文など、米国の論壇でも中国とロシアが同盟――正規の同盟でなくても、実質的な同盟関係――を構築する可能性について警告する論調が目立ち始めてきた。

先のマティスの言葉をアレンジして言うと、今日の中ロ関係においては、「米国の脅威」という利害の自然な一致がある。したがって、中国がロシアとの関係を表に出してジワリと米国を牽制する局面は増えないわけがない。
例えば、中ロが共同して行う軍事演習。既に2018年9月、ロシアがソ連崩壊後最大規模の軍事演習「ボストーク2018」を極東で実施した際には、人民解放軍3千人が参加した。中国は近年、最新鋭戦闘機スホイ35やミサイル防衛システムS400をロシアから購入。米国はこれを対ロ制裁違反と認定し、中国軍高官を制裁指定した。中国が従来よりも早いサイクルでロシア製の最新鋭兵器を購入できるようになったことは、米軍にとって不愉快な話である。

とは言え、中国がすぐにロシアとの協力関係を同盟にまで高める可能性は低いだろう。中国指導部には、米国と現時点で全面的にぶつかるのは得策ではない、という慎重な見方がまだ残っているように見える。ロシアと一緒になって米国を露骨に刺激し、自らに対する米国の無用な攻勢を誘うことはあるまい。

だが、ロシアというカードには、米国に対する中国の弱点を補うという意味で、他国にはない禁断の魅力がある。それは、ロシアの核戦力だ。前々回のポストで見たとおり、米中の力関係を比較すると、経済面では相当程度拮抗しているのに対し、軍事面ではまだ米国のリードが大きい。特に、グラフ③を見れば、中国の核戦力は米国に対してあまりにも見劣りしていることが一目瞭然である。
中国が米国との核戦争を想定しているとは思わないが、仮に将来、米中間で軍事的緊張が高まった時、究極の最終兵器である核戦力面がここまで劣っていれば、やはりハンディになる。この面で米国に対抗できるのは、地球上にロシアしかない。

現在、米中間で対立が表面化している「前線」は経済面だ。これが将来、軍事面にまで拡大して来れば、中国とロシアはより同盟に近づくであろう。その時、ロシアは中国に対しても米国に対しても発言力を高める。その意味では、米中関係の緊張激化を喜んでいる数少ない指導者の一人はウラジーミル・プーチンに違いない。

世界は二極化しない

このブログでは、世界中のすべての国々と中国の関係を一つ一つ点検する余裕はない。だが、米国と対抗するため、中国が米国以外のほぼすべての国に手を伸ばそうとすることはおそらく間違いない。

一方、今後は米国も関係国に圧力をかけ、中国の「逃げ道」をふさごうとする可能性が高い。しかし、今日の世界には、冷戦期に存在した東西ブロックのようなものは存在しない。冷戦期の米ソがそうだったように、今日の米国あるいは中国が他国に対して「主人」のように振る舞おうとしても、なかなかうまくいくものではない。

これからの世界は、突出した国力を持った米中がバイ(二国間)で競いつつ、世界全体では多極化が進む――。これが私の予想する国際政治の構図だ。
「冷戦」という言葉に「二極化した世界」というイメージがつきまとうことを考えれば、やはり私は「米中冷戦」という言葉を安易に使うべきではないと思う。

令和の始まりに考える「米中冷戦」論 ③ ~ 米中対立の性格を吟味する

最初にお断りを一言。本ブログでは、前回前々回と「平成の終わりに考える『米中冷戦』論」というタイトルで米中関係を論じている。先月中に一区切りつけることができるだろう、と思って書き始めたのだが、甘かった。諸般の理由で時間が十分とれなかったことに加え、やはりテーマが大きいため、予想以上に筆に進まなかったのだ。その結果、前二回を引きついだ今回のポストは、「令和の始まりに考える~」とタイトルを変更している。不格好な話だが、ご寛恕願いたい。

第1回のポストでは米ソ冷戦後の米中関係の推移を振り返り、第2回は米ソ冷戦と今日の米中関係を比較することによって米中関係の特徴を記述した。以上を踏まえ、今回は米中関係の性格をさらに深掘りしてみたい。

緩い対立~熱戦はない

米中関係が緊張の度を増していることは否定できない事実である。だが、それは冷戦期の米ソ関係のような「一触即発」の緊張とは異なる。

1. 米中「熱戦」はない

第一に、米中が軍事的な戦争に至る可能性は、無視してよい。米中開戦が必至、という見方もあるようだが、少なくとも現段階では、それは扇動の類いにすぎない。

冷戦期の米ソは、まさに一触即発の状況にあり、世界中の人々が人類全体を何度も滅ぼす核戦争の恐怖に怯えた。しかし、両超大国の持つ核戦力が対等(パリティ)の状態になって相互核抑止が成立したため、米ソ間で戦争(=熱戦)が起こることはなかった。結果的に「長い平和(Long Peace)」が実現したのである。

翻って米中間の核戦力を見ると、前回見たとおり、米国が中国を圧倒している。米中間には軍事的な意味での相互核抑止は成立していない。だが、米中関係の緊張にもかかわらず、両国間で核戦争が起きるとは考えられていない。核戦力で圧倒的に劣る中国が米国を核で先制攻撃できないことは当然であろう。他方で、優位に立つはずの米国にとっても中国を核攻撃することはリスクが大きすぎる。米国が中国の核戦力を破壊し尽くす前に、中国も米本土に核ミサイルを数発以上射ち込むくらいのことは十分に可能だからである。自国が攻撃された場合は別だが、すべての先進国は、大勢の自国民の命を失うとわかっていて戦争を起こす、ということができない時代になっている。米国とて例外ではない。

中国は負けることがわかっているから核のボタンを最初に押すことができない。米国は勝つとわかっていても予想される中国の反撃によって受ける被害に耐えられないため、核のボタンを最初に押さない。つまり、今日の米中間には、相互核抑止とは別種の相互抑止が成立しているのだ。したがって、米中間で(少なくとも本格的な)戦争が起こるとはことも考えられない。

2. 相手を打倒しようと思っていない

米中が相手に対して感じる脅威のレベルが比較的低いことも、米中が軍事的に戦わないことのもう一つの理由である。

冷戦期の米ソは、それぞれ「民主主義・資本主義」、「共産主義」という異なるイデオロギーを奉じ、それを世界に広げると同時に自らの勢力圏を拡大しようとして相争った。政治イデオロギーに関して言えば、「民主主義」対「共産主義」の対立構図は米中間に今も見られる。しかし、自らの政治イデオロギーを「輸出」しようとか、相手の体制を転覆しようとかいう意図は、双方とも持っていない。その意味で、米ソ冷戦下で厳然と存在したようなイデオロギー対立は、今の米中間には存在しない。当然、米中間の対立は米ソ間の対立よりも「緩い」ものとなる。

なお、経済については、計画経済(国家統制)を残したまま資本主義を取り入れる中国に対し、資本主義の総本山とも言える米国は(特にトランプ政権になってから)重商主義に傾き、こちらも国家の介入色を強めている。米中「貿易戦争」の核心にあるのは、経済イデオロギーの対立ではない。「利益」をめぐる対立だ。

3. ペンス演説

昨年11月4日、マイク・ペンス米副大統領はワシントンにある保守系シンクタンクで政権の対中政策について講演した。中国への敵意をむき出しにした内容だったため、一部では第二の「鉄のカーテン」演説と呼ぶ者もいる。

私はペンス演説に二通りの感想を持った。一つは、副大統領という地位にある者がここまで露骨な表現で中国を罵ったことに対し、ニクソン=キッシンジャー以来の米中接近という大きな流れが転換点を迎えた、というもの。もう一つは、米中対立はやはり米ソ対立とは違うな、という思い。キリスト教福音派らしい宗教的熱狂を帯びた表現を多用しているものの、ペンスの挙げた中国の「罪状」を煎じ詰めれば、「中国が米国を追い上げ、米国の派遣に挑戦している」ということ、つまりは「国力の接近」だ。根本にイデオロギー対立があった米ソ冷戦とはそこが大きく違う。だから、米中対立は米ソ冷戦に比べ、「緩い」のである。

そのうえで言うと、私がペンス演説の中で最も注目したのは、中国が米国世論に対して様々な形で工作を仕掛け、米国民の政権選択をも左右しようとしていると警戒感を露わにしたこと。ロシアがトランプ大統領誕生(=ヒラリー大統領阻止)のために露骨な選挙介入を行ったことには触れないまま、中国が反トランプの工作を行っていると非難するのはご都合主義だと失笑せざるをえない。

しかし、ネットを通じたものであれ、その他諸々の工作によるものであれ、外国が自国にとって都合の悪い政治家を落選させたり、逆に都合のよい政治家を当選させたりするようなことがあれば、それは一種の「間接侵略」である。(私に言わせれば、2016年米大統領選におけるロシアの介入は間接侵略以外の何ものでもない。)真珠湾攻撃や9.11同時多発テロが示すとおり、自国が侵略(攻撃)された時の米国は、徹底的に戦う。2016年大統領選挙時のロシアばりに露骨な形で中国が米国世論への介入を行えば、米中の対立を「緩い」と言い続けられる保証はなくなるだろう。

恒常的な対立

軍事的な直接衝突は起こらないかわりに、米中間では経済的な対立が既に顕在化している。経済や技術面での米中の直接衝突は、今後も終わることなく、ダイレクトな形で続いていく。

1. 貿易摩擦(貿易戦争)

経済摩擦は武力衝突のようなハードな対立ではない。その分、経済における米中「戦争」は恒常的に発生しうる。

米ソ冷戦の時は、武力衝突も貿易戦争もなかった。米ソ間、あるいは東西ブロック間の貿易量は極めて少なかったから、冷戦期にはそもそも米ソの貿易戦争など起きようがなかった。(冷戦期を通じて米国が何度か対ソ穀物輸出を制限したことはある。しかし、影響は限定的で「貿易戦争」と形容すべきものではなかった。)

これに対し、米中間には経済的に深い相互依存関係が存在する。その気になれば、双方がいつでも経済制裁に打って出ることはできる。

ちなみに、経済的な制裁措置には、「買わない」制裁と「売らない」制裁がある。今、トランプが中国に仕掛けている関税引き上げは、「買わない」制裁の一種だ。モノが溢れている状況にあっては「輸出を止める」と脅すよりも「輸入を制限する」と脅す方が有効なことが多い。一方で、2010年の尖閣漁船事件の際に中国がとったレアメタル禁輸は「売らない」制裁の例である。希少な原材料だからこそ、輸出禁止が圧力になると考えられたのである。

これまで長い間、米国を含む各国の政府は貿易をプラスサム(ウィン・ウィン)ゲームと捉えてきた。関税引き上げなどの貿易制限的な措置をとった場合、自国産業にも悪影響が出ることが避けられない。北朝鮮やイランなどに対する戦略的目的を持つものを別にすれば、貿易赤字があるからという理由で大規模な貿易戦争に打って出ることは控える――。1980年代の日米自動車摩擦の時を含め、それが従来の常識だった。

しかし、ドナルド・トランプは違った。トランプは貿易をゼロサム・ゲームと捉え、貿易制限をいとも簡単に発動する。米産業全体では「返り血」を浴びるはずだが、それよりもディール感覚での駆け引きを優先しているように見える。

トランプ政権がこれまで中国に対して仕掛けた関税引き上げは以下のとおり。2018年3月に鉄鋼・アルミニウムの関税を引き上げたのを皮切りに、同年7月にはロボットや工作機械など340億ドル分、8月には半導体や化学品など160億ドル分、9月には家電や家具など2000億ドル分を対象に関税を15%引き上げて25%にする、と発表した。(実施時期にはズレがあり、2000億ドル分の引き上げは今年5月。)さらに、去る5月10日には残りの全輸入品(iPhoneを含む)についても追加関税をかける準備を始めた。これら一連の関税引き上げに対し、中国が毎回、米国からの輸入に対して関税を引き上げるなど、報復措置を講じたことは言うまでもない。

「貿易戦争」を始めたのがトランプであるなら、今後トランプ大統領が任期を終えれば、事態は沈静化するのだろうか? そうはなるまい。

政治的なタブーは一度破られると、タブーでなくなるもの。伝統的に自由貿易の牙城であったはずの共和党は今やこぞってトランプ支持に傾いた。トランプと競う民主党は元々保護主義に親和性が高い。民主党の大統領候補がトランプ流に対抗して自由貿易を打ち出す雰囲気はない。

米中間で過激化する一方の貿易摩擦を鎮静化させる要素があるとすれば、貿易戦争の悪影響が金融市場や景気動向に急激に作用し、トランプの政権運営の足を引っ張るような事態が起きることであろう。後述するように昨年10月から年末にかけてはそうした動きがまさに見られた。

2. 技術覇権戦争

トランプ政権が中国に仕掛けている経済戦争は、単に貿易や関税と言った分野にとどまらない。私は、米中が今後、技術覇権をめぐって繰り広げる抗争こそ、「戦争」という名によりふさわしい、と思っている。

為替レートを購買力平価で計算すれば、超大国である米国はGDPに代表される経済力で中国に既に抜かれ、実勢レートでも抜かれるのは時間の問題。米中の経済ボリュームが逆転すれば、軍事力の面でも米国が中国にキャッチアップされるのは時間の問題である。

そこで米国が重視するのが、技術力で対中優位を堅持することになる。これからの経済覇権は、AIに象徴される情報技術の基準を誰が先に押さえるか、に大きく左右される。軍事面でも、湾岸戦争以降、アフガン戦争やイラク戦争で世界に衝撃を与えた米国の精密誘導兵器は軍事力と情報力の結合にほかならない。この分野においても、中国やロシアのキャッチアップは急だ。5Gを含めた次世代の技術標準で中国――正確には、米国以外のあらゆる国――に先を越されれば、超大国・米国の経済覇権と軍事覇権は本当に危うくなる。この点については、不動産王あがりのトランプよりも、米国の戦略立案者たちの方が危機感は強い。論より証拠、この1年あまりの動きを振り返ってみれば、米国がなりふり構わず、技術開発の面で中国を封じ込めにかかっていることは明らかだ。

2018年4月、米国政府はZTE(中興通訊)に対し、対イラン制裁違反を名目に7年間の米国内販売禁止を命じた。2018年後半になると、米政府が同盟国に対し、HUAWEI(華為技術)の通信機器を使わないよう要請した。同年12月には、HUAWEI創業者の娘(副会長)の孟晩舟が米政府の要請に基づいてカナダで逮捕される。今年5月には、ポンペオ国務長官が英国に対して5G移動通信システムにHUAWEI製品を使用しないよう求めた。もちろん、米国政府が英国以外にも同様の要求をしているであろうことは容易に想像できる。

米国は本気だ。しかし、中国も後に引くことはできない。技術覇権をめぐる米中間の熾烈な抗争は今後も続く、と見ておくほかない。

 米中経済摩擦のコスト(経済的な影響)

米ソ冷戦とは異なり、米中対立の基本構造は、米国と中国の2国間のものだ。しかし、両国の経済摩擦の影響は世界中に及ぶ。米中関係の議論からは少し離れるが、トランプの自国中心主義(アメリカ・ファースト)の矛先は中国だけに向いているわけではない、ということについてもここで触れておく。

1. 国際経済、金融市場への影響

米国による関税引き上げとそれに対する中国の報復合戦が続けば、当然ながら米中の経済や日本を含めた世界経済にマイナスの影響が出ることは避けられない。

問題がそれにとどまれば、ある意味で米中の自業自得。だが、米中は世界第1位と第2位の経済大国であり、両者のGDPを合計すれば世界全体の4割弱を占める。グローバリゼーションが進展した今日、米国や中国と経済相互依存状態にない国は事実上存在しない。米中経済の減速が日本を含めた世界経済の足をも引っ張ることは当然だ。

OECDの見立てでは、5月10日に米国が実施に移した2000億ドル分の追加関税引き上げにより、米国のGDPは約0.4%、中国のGDPは0.6%程度押し下げられるとともに、世界全体のGDPも0.2%ほど低下する。米中が双方からの輸入品全体に追加関税をかけるシナリオでは、最終的なGDPの押し下げ幅は米国=1.1%、中国=1.3%、世界=0.8%に拡大する。

米中の貿易戦争、技術戦争は実体経済に悪影響を及ぼす以上に金融市場を大きく揺さぶる。好調な米企業業績などを反映して米国株式市場は2018年10月に史上最高値を更新していたが、米長期金利の上昇に加え、トランプ政権による対中関税の追加引き上げ方針表明や孟晩舟逮捕などが重なり、年末にかけて株価は大きく下落した。10月3日に26,823ドル(終値)をつけたニューヨーク・ダウは、12月24日に21,792ドルにまで下落。日経平均も10月2日に24,270円だったのが、12月25日には19,155円まで下がった。

株価急落を受けたトランプ政権は中国と協議して合意に至る意思を示し、FRBも利上げ観測を醒ましたため、今年に入って米国株は回復に向かった。それでも先週、米政府が2000億ドル分の対中輸入に対する関税を15%引き上げると発表するや、米国や世界の株価は一斉に下落した。米中貿易・技術戦争がエスカレートして金融市場がさらに動揺すれば、実体経済の被る悪影響が増幅されることは言うまでもない。

2. アメリカ・ファースト

米中冷戦のイメージが強すぎると見過ごされてしまいがちだが、トランプ政権が仕掛ける貿易戦争の標的は中国だけではない。

米ソ冷戦たけなわの頃には、米国にとって不倶戴天の敵であるソ連と対決することが最優先課題だった。米国が西側同盟諸国に対して貿易戦争を大々的に仕掛けることなど、論外であった。(日米繊維摩擦など、限定的な経済摩擦はあった。)

だが今日、トランプにとって大事なものは、外交でも政治でもビジネスでも「勝ち負け」だ。中国に貿易戦争を仕掛けているのも、貿易赤字(=負け)を減らすことが米国の国益だと信じているため。要するに、トランプの貿易戦争の原動力は、アメリカ・ファーストという名の自国中心主義なのである。そう考えれば、トランプの矛先が向かうのは中国だけ、ということにならないのは自明の理だろう。

実際、鉄鋼・アルミの追加関税は中国だけでなく、EU、カナダ、メキシコ、日本なども対象となった。(日本製品は鉄鋼で申請分の4割、アルミで8割が適用除外された模様。なお、中国製アルミも申請分の25%は適用除外されている。)

米国政府はカナダ、メキシコにNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を要求し、2018年11月にUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を締結。メキシコからは自動車貿易における原産地規則強化や賃金条項の導入、カナダからは乳製品市場へのアクセスや知財保護期間などを獲得した。また、2018年9月には米韓FTAを改訂し、米国によるトラック関税撤廃を20年延期した。日本とはTAGという名の日米FTAの締結に向け、現在交渉中だ。

「アメリカ・ファースト」の最大の焦点となる、自動車関税の引き上げ――1980年代の日米自動車摩擦の時でも具体的な政治課題にはならなかった――に至っては、中国など眼中にはない。その狙いが米自動車産業の保護にあることは言うまでもない。WTOのエコノミストは、米国が外国車の輸入を制限すれば、米中間の貿易摩擦よりも世界経済への影響が大きいと指摘している。

米国が同盟国に対して要求を突き付けているのは、貿易や経済だけに限った話ではない。2018年7月、トランプはNATO首脳会談で他の加盟国に対して、防衛費をすぐさまGDPの2%まで増額し、NATO加盟国が2024年までに達成すべき防衛費の対GDP比率も4%に引き上げるよう求めた。日本は米国からの兵器購入を増額することで当面の矛先をかわしている。だが、現在1%未満にすぎない防衛予算の対GDP比を増やせという要求がいつ来てもおかしくない状況にある。

冷戦期は、ソ連に対抗するために西側ブロックの結束を重視し、盟主であり、超大国である米国が防衛責任の大半を負っていた。米ソ冷戦期以来の「慣行」は、経済分野のみならず、軍事の分野でも当たり前のものではなくなりつつある。